おめでとう

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血だまりに足が触れないように顔を動かすために、頭上へ移動した。 やけに口が乾く。水の一杯でも飲んでおけばよかった。 血に濡れた髪の毛は厚く顔を隠している。 とりあえずこの髪をどければ横顔が見えるかもしれない。 そう思い、野上は恐る恐る人差し指で、女の髪に触れた。 つるりとした感触。 野上には付き合っていた彼女がいる。だから髪に触れた女性は二人目になる。 わたぼうしを飛ばさないように触れるみたいに優しく、その髪をかき上げた。 「………ん?」 違和感を感じ、手を止めた。 それからもう一度、かき上げてみた。 (あれ?) 三度目、かき上げた時に、指が耳にあたり、その違和感は戦慄に変わった。 「ひっ!!!!」 思わず体を後ろに逸らし、勢い良く尻もちをついてしまった。 (う………うつ伏せじゃない、あ、ああ、仰向けだ!!!!) この女性は、うつ伏せに倒れてはいなかった。 だったのだ。 あるいは頭がぐるりと回転してしまっているかしかない。 しかしそれを知るには、この、髪の毛で覆いつくされた顔と首を露わにするしか方法はないのだ。 (くそっ!!救急隊員はまだかよ!!) 野上は到着に時間がかかっている救急隊員に怒りを覚えた。不安や恐怖や焦燥が今にも爆発しそうになっているからである。苛立って、目の前にある得体の知れないおぞましい死体を今にも泣きそうな顔で睨みつけた。 (くそっ!!くそっ!!くそっ!!) それから、一気に正面の髪をかき分けた。
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