おめでとう

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【おめでとう】 まだぬらぬらと赤く光る血だまりから伸びた、徐々に(かす)れた赤黒い線が、その5文字を書きなぐっていた。 「な、なんだよこれ…!」 軽快な目覚ましの音楽で目を覚ました野上渉(のがみわたる)は、ベット脇のフローリング上に血塗(ちまみ)れで横たわる女の姿が目に入り、声にならない悲鳴を上げた。 「ななな、なんで、俺の部屋に…!?な、なんなんだよ、この女、死…?」 野上は必死に昨日のことを思い出そうとしたが、どんなに頭を回転させても全く記憶になかった。というか、【この女】は記憶になかった。 昨日はいつものように起きて、いつものように大学へ出かけ、いつものように帰宅し、コンビニ弁当を食べ、課題をこなし、シャワーを浴びてからベットへ潜り音楽を聴きながらweb漫画を読んで、心地良い疲れと共に眠りに落ちた、筈だ。 その記憶しかない。 「死んでる、のか?………おめでとうって…なんなんだよ…っ」 産まれて初めて、体中が震えた。 人間は心の底から恐怖を感じると、本当に漫画やドラマのように、体ががくがく震えるのだということを初めて知った。 「け、警察に、電話っ。いや、救急車か」 震える手で持ったスマートホンを二度落とし、なんとか持つことができたが、今度は、119、がなかなか押せなかった。
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