0人が本棚に入れています
本棚に追加
【おめでとう】
まだぬらぬらと赤く光る血だまりから伸びた、徐々に掠れた赤黒い線が、その5文字を書きなぐっていた。
「な、なんだよこれ…!」
軽快な目覚ましの音楽で目を覚ました野上渉は、ベット脇のフローリング上に血塗れで横たわる女の姿が目に入り、声にならない悲鳴を上げた。
「ななな、なんで、俺の部屋に…!?な、なんなんだよ、この女、死…?」
野上は必死に昨日のことを思い出そうとしたが、どんなに頭を回転させても全く記憶になかった。というか、【この女】は記憶になかった。
昨日はいつものように起きて、いつものように大学へ出かけ、いつものように帰宅し、コンビニ弁当を食べ、課題をこなし、シャワーを浴びてからベットへ潜り音楽を聴きながらweb漫画を読んで、心地良い疲れと共に眠りに落ちた、筈だ。
その記憶しかない。
「死んでる、のか?………おめでとうって…なんなんだよ…っ」
産まれて初めて、体中が震えた。
人間は心の底から恐怖を感じると、本当に漫画やドラマのように、体ががくがく震えるのだということを初めて知った。
「け、警察に、電話っ。いや、救急車か」
震える手で持ったスマートホンを二度落とし、なんとか持つことができたが、今度は、119、がなかなか押せなかった。
最初のコメントを投稿しよう!