幼馴染で両思いなのに運命の番じゃないわけがないだろ?

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 俺には苦手なやつがいる。  賀茂――背が高く威圧的、派手でいっつも似たような輩とつるんでいる。  俺と賀茂は幼い頃同じ幼稚園に通っていた。そう、所謂幼馴染というやつだったがただそれだけだ。  なのに賀茂、あいつは、なにかしら俺に絡んでくるのだ。  俺はただ静かに暮らしたかった。そんな俺にとって賀茂の存在は恐怖でしかなかった。 「八葉、やーつーはっ。よ、相変わらずお勉強してんのか〜? お前は真面目だよなあ、脳味噌腐っちまうぞ」 「は、はは……俺にはこれくらいしか取り得ないからね」 「なーに言ってんだよ、俺にはぜってー無理だもん。お前もっと自信もてって」 「……どうも」  なにが言いたいのか分からない。それでも、上から目線で褒めてくる賀茂にムカついた。  賀茂は恵まれてる。体格も、周りの人間にも、こんなに馬鹿で校則も当たり前のように破ってるくせに持ち前の愛嬌と面の良さで教師たちからも甘やかされて、その間俺は必死に机にしがみついて勉強してるというのに俺を褒めてくれるやつなんてこいつくらいしかいないのだ。 「ん? どした?」 「……なんでもない。それより、賀茂君。外で友達待ってるよ」 「あ〜……そだな、お前もたまには付き合えよ」 「悪いけど……」 「あは、だよなぁ。お前んちのオバサン、厳しいもんな」 「今度休みの日でも遊ぼうな」なんて笑って、賀茂は立ち上がる。  賀茂がいなくなってようやく呼吸ができるようになる。  ……危なかった。  自分の額に触れる。じんわりと熱を持ち出していた体を落ち着かせるため、俺は鞄の中に仕舞っていた発情抑制剤を取り出した。  あいつがあのままここに居座れば、もう少しで手遅れになっていただろう。  第三の性別がβからΩに変化したのは数日前のことだった。熱とは明らかに違う体調不良にもしかして、と家にあった抑制剤を飲んでそのことに気付く。  本当ならば病院から処方箋をもらい、それを学校や勤務先に提出して然るべき手続きを取らなけれらならないのだが、俺はそれをしなかった。  これ以上誰かに馬鹿にされるのは嫌だった。これ以上親に失望されたくなかった。  だから、親にも言っていない。ヒートにさえならなければバレない。市販の抑制剤を隠れるように買って帰り、それを飲んで誤魔化してきた。  首輪なんてつけたらそれこそ自分からΩだと公言しているようなものだ。  だから、細心の注意を払いつつ俺は今まで通りβとして日常生活を送っていた。  付け焼き刃だとわかっていた。長くは保たないことも。それでも、ここ最近親が俺の成績について話し合っては失望してるのを見てしまった俺にはこれしかなかった。  せめて、大学受験を終えるまでの辛抱だと。両親を安心させることができるまで隠しぬこう、そう思っていた。  思っていたのに――。
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