566人が本棚に入れています
本棚に追加
ダンス転倒作戦は失敗に終わった。
ヴェサリスに呼ばれて厨房に入ると、オルランジェとマッコンエルがいた。
「すみません。うまくいかなかったです……」
「いいのよっ!」
作戦が失敗したにも関わらず、オルランジェは感極まった表情で胸を押さえた。
「グレース先生の見ている前でリルエちゃんを抱きしめるなんて、アル様ってなんて大胆なの!! グレース先生、ポカンとした顔をしていらしたわ。ああ、なんて素敵なんでしょう。恋愛小説よりも、ドキドキしちゃう。このまま突っ走ってちょうだい!」
「あのー、オルランジェさん。何を言っているのですか?」
マッコンエルがわたしの肩を叩いた。
「俺も、嫌われマニュアルに参加している。オルランジェのダンス転倒作戦は失敗したけれど、次は大丈夫。自信がある」
「え? 次もあるのですか⁉︎」
マッコンエルは自信満々に、次なる嫌われマニュアルを発表した。
その内容に、血の気がサーっと引いていく。
「無理です! そんな演技、できません!!」
マッコンエルから陽気さが消えた。じっとりとした視線と、ウジウジした話し方で責めてくる。
「俺はリルエちゃんのために、マフィンを食べてあげたのになぁ。食べ過ぎて、マフィンのお化けが襲ってくる悪夢まで見たというのに……。一生懸命に嫌われ作戦を考えたのに、リルエちゃんは無視するのかぁ。悲しいなぁ」
「無視はしていないです。あの、わたし……」
「リルエちゃんは、俺のことなんてどうでもいいってわけかぁ」
「そんなことないです! でもわたし、お酒を一度も飲んだことがなくて……」
「オルランジェの転倒作戦はできても、俺の酔っぱらい作戦はできないってわけかぁ。俺、嫌われているのかなぁ?」
「そんなことないです!! わかりました! やります!!」
突然ネガティブになってしまったマッコンエルを元気づけたくて、嫌われ作戦を受けると、マッコンエルとオルランジェは笑顔でハイタッチをした。
「やったわね! 二人を急接近させちゃうわよ!!」
「リルエちゃん、俺の演技に騙されたな! でも、やると言ったからにはやってもらうよ。どんな酔っ払いさんになるのか、楽しみだ!」
「演技……?」
動揺していると、ヴェサリスから折り畳んである紙片を渡された。
「酔っ払い作戦が失敗したら、これを読んでください。リルエさんが次にするべきことが書いてあります」
「次もあるんですか⁉︎」
「これで最後です」
わたしは紙をスカートのポケットにしまうと、オルランジェから飲み物を受け取って、渋々アルオニア王子のいるテラスに向かったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!