三章 恋人役のレッスン

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 ダンス転倒作戦は失敗に終わった。  ヴェサリスに呼ばれて厨房に入ると、オルランジェとマッコンエルがいた。 「すみません。うまくいかなかったです……」 「いいのよっ!」  作戦が失敗したにも関わらず、オルランジェは感極まった表情で胸を押さえた。 「グレース先生の見ている前でリルエちゃんを抱きしめるなんて、アル様ってなんて大胆なの!! グレース先生、ポカンとした顔をしていらしたわ。ああ、なんて素敵なんでしょう。恋愛小説よりも、ドキドキしちゃう。このまま突っ走ってちょうだい!」 「あのー、オルランジェさん。何を言っているのですか?」  マッコンエルがわたしの肩を叩いた。 「俺も、嫌われマニュアルに参加している。オルランジェのダンス転倒作戦は失敗したけれど、次は大丈夫。自信がある」 「え? 次もあるのですか⁉︎」  マッコンエルは自信満々に、次なる嫌われマニュアルを発表した。  その内容に、血の気がサーっと引いていく。 「無理です! そんな演技、できません!!」  マッコンエルから陽気さが消えた。じっとりとした視線と、ウジウジした話し方で責めてくる。 「俺はリルエちゃんのために、マフィンを食べてあげたのになぁ。食べ過ぎて、マフィンのお化けが襲ってくる悪夢まで見たというのに……。一生懸命に嫌われ作戦を考えたのに、リルエちゃんは無視するのかぁ。悲しいなぁ」 「無視はしていないです。あの、わたし……」 「リルエちゃんは、俺のことなんてどうでもいいってわけかぁ」 「そんなことないです! でもわたし、お酒を一度も飲んだことがなくて……」 「オルランジェの転倒作戦はできても、俺の酔っぱらい作戦はできないってわけかぁ。俺、嫌われているのかなぁ?」 「そんなことないです!! わかりました! やります!!」  突然ネガティブになってしまったマッコンエルを元気づけたくて、嫌われ作戦を受けると、マッコンエルとオルランジェは笑顔でハイタッチをした。 「やったわね! 二人を急接近させちゃうわよ!!」 「リルエちゃん、俺の演技に騙されたな! でも、やると言ったからにはやってもらうよ。どんな酔っ払いさんになるのか、楽しみだ!」 「演技……?」  動揺していると、ヴェサリスから折り畳んである紙片を渡された。 「酔っ払い作戦が失敗したら、これを読んでください。リルエさんが次にするべきことが書いてあります」 「次もあるんですか⁉︎」 「これで最後です」  わたしは紙をスカートのポケットにしまうと、オルランジェから飲み物を受け取って、渋々アルオニア王子のいるテラスに向かったのだった。
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