二章 恋人役のお仕事

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 ヴェサリスの部屋に入ってきたのは、二人の使用人。先日家まで送ってくれた御者のマッコンエルと、ふくよかな体型をした年配の女性。  ヴェサリスは、彼女の名前はオルランジェで、この屋敷のメイド長だと紹介した。 「リルエさんは、男性との交際経験がないそうです。そのため、アルオニア様の彼女役に抜擢されて戸惑っておられます。ここはわたくしたち三人が全面に協力をし、共に頑張っていくことにしましょう」 「ようし、盛り上げてやるぜっ! なんてたって、アル王子が気に入った女の子なんだから。リルエちゃん、俺らに任せて!!」 「あ、あの、マッコンエルさん。気に入っているとか、そういうわけでは……」  わたしと王子はただのビジネスパートナーなのに、マッコンエルは誤解している。  ヴェサリスに助けの目を向けたものの、柔和な笑みを返されただけだった。誤解は、自分で解くしかないらしい。   「あの、盛り上げていただかなくても大丈夫です。ただの匂わせ程度の……」 「リルエちゃん、いい考えがあるの! 私たちが恋愛マニュアルを作るってあげるわ。リルエちゃんは、その恋愛マニュアルに従って動けばいいのよ!」 「それ、いいっすね!!」  オルランジェの提案に、マッコンエルはすぐさま同意した。 「まずは、二人だけの時間を作ることだな。親密度を上げていこうぜっ!」 「だったらアル様の好きなものをリサーチして、一緒に買い物に行ってはどう?」 「一般人の目があるとなぁ。アル王子は目立つから……」 「だったらレストランを貸し切っちゃう?」 「王族とか貴族のデートというよりは、もっと庶民的な感じがいいんじゃないかな? 王子はそういう経験がないから」 「そうだわ、それよ! きゃー!! 王子様が庶民の女の子とお忍びデートする。恋愛小説みたいでときめくわぁ!」  メイド長であるオルランジェは、わたしの母より年上だ。それなのに、嬉々として黄色い声をあげている様は少女のよう。  二人のノリについていけず、わたしはうろたえるばかり。  ヴェサリスは、腹に一物あるような笑みを浮かばせた。 「いいですか、リルエさん。四ヶ月という期間限定の恋人ではありますが、しっかりと仕事をしていただきます。恋人役のプロを目指してください」 「プロだなんて、そんな……。初心者の私にできるはずないです!」 「だからこその恋愛マニュアルです。マニュアル通りに行えばいいのです」  キッパリと言われてしまうと、気の弱いわたしは言い返すことができない。  青ざめているわたしを、マッコンエルが励ましてくれた。 「俺ら三人は、アルオニア様に仕えている年月が長いんだ。しかも忠誠心が強く、主人の幸せを心から願っている。リルエちゃんからしたら、アル王子は君に関心のない態度をとっているように見えるかもしれないけれど、本当に無関心だったら、仕事であっても彼女役なんて頼まないよ。だからさ、自信をもって彼女になりきればいいんだ」 「マッコンエルさんにそう言ってもらえると、自信がもてるような気がします」 「リルエちゃんって素直! そうそう、その調子。頑張って!」  マッコンエルの気のいい笑顔のおかげで、前向きな気持ちになれた。
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