三章 恋人役のレッスン

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 険しい表情のグレースに、わたしはもう一度叫んだ。   「社交会に出るためのレッスンをお願いします! どんなに厳しくても、決して弱音は吐きません。ですからどうか、アルオニア様の隣に立つに相応しい女性になるためのご指導を、お願いします!!」  グレースは、眼鏡の奥からわたしをじっと見た。心の奥底まで見透かすような、冷徹な眼差し。  わたしもグレースを見つめる。互いに視線を逸らさないまま、緊迫した空気が流れる。  たっぷりと間を置いてから、グレースが口を開いた。   「アルオニアは、将来を期待されています。その隣に立つというのは、半端な気持ちでできるものではありません。幼い頃からレッスンを受けてきた良家の子女と違って、あなたには土台がない。努力したからって、一ヶ月で隣に立てるとでも?」 「でも、努力するしか道はありません。それならわたしは、死ぬ気で努力します!」 「ですが私は、並外れて厳しいことで有名です。覚悟はできていますか?」 「はい!!」  間髪入れずに返事をする。少しでも間が開けば、口先だけの覚悟だと追及される気がしたから。  グレースは背中を向けた。 「来なさい。勉強を始めます」  グレースのレッスンを受けられる、その試験に合格したらしい。  ヴェサリスはあからさまに緊張を解いた息を吐きだし、心臓の上を押さえた。顔色が悪い。わたしたちのやりとりに、終始ハラハラしていたのだろう。  アルオニア王子もまた、表情を崩した。クールな人なのに、瞳が潤んでいる。  王子の唇が動く。声は聞こえなかったけれど、「ありがとう」そう言葉を紡いだように見えた。  わたしは微笑むと、グレースの後をついて行く。  もう絶対に逃げない。弱い自分になんか負けない。契約が切れるそのときまで、わたしはアルオニア王子の恋人なのだから。  もう絶対に逃げない。弱い自分になんか負けない。契約が切れるそのときまで、わたしはアルオニア王子の恋人なのだから。    
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