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険しい表情のグレースに、わたしはもう一度叫んだ。
「社交会に出るためのレッスンをお願いします! どんなに厳しくても、決して弱音は吐きません。ですからどうか、アルオニア様の隣に立つに相応しい女性になるためのご指導を、お願いします!!」
グレースは、眼鏡の奥からわたしをじっと見た。心の奥底まで見透かすような、冷徹な眼差し。
わたしもグレースを見つめる。互いに視線を逸らさないまま、緊迫した空気が流れる。
たっぷりと間を置いてから、グレースが口を開いた。
「アルオニアは、将来を期待されています。その隣に立つというのは、半端な気持ちでできるものではありません。幼い頃からレッスンを受けてきた良家の子女と違って、あなたには土台がない。努力したからって、一ヶ月で隣に立てるとでも?」
「でも、努力するしか道はありません。それならわたしは、死ぬ気で努力します!」
「ですが私は、並外れて厳しいことで有名です。覚悟はできていますか?」
「はい!!」
間髪入れずに返事をする。少しでも間が開けば、口先だけの覚悟だと追及される気がしたから。
グレースは背中を向けた。
「来なさい。勉強を始めます」
グレースのレッスンを受けられる、その試験に合格したらしい。
ヴェサリスはあからさまに緊張を解いた息を吐きだし、心臓の上を押さえた。顔色が悪い。わたしたちのやりとりに、終始ハラハラしていたのだろう。
アルオニア王子もまた、表情を崩した。クールな人なのに、瞳が潤んでいる。
王子の唇が動く。声は聞こえなかったけれど、「ありがとう」そう言葉を紡いだように見えた。
わたしは微笑むと、グレースの後をついて行く。
もう絶対に逃げない。弱い自分になんか負けない。契約が切れるそのときまで、わたしはアルオニア王子の恋人なのだから。
もう絶対に逃げない。弱い自分になんか負けない。契約が切れるそのときまで、わたしはアルオニア王子の恋人なのだから。
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