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わたしは化粧室に避難した。
ところが今度は、化粧室にいる若い女性たちに王子とどのような関係なのか質問されてしまった。
「アルオニア様とは、ただの友人なんです」
「本当に? でも最近、国立劇場で女性と親しげに話しているのが目撃されたわ。それって、あなたじゃないの?」
「あー……」
「やっぱり、あなたなのね! 私の名前はソニア。友達になりましょう!!」
「抜け駆けなんて、ずるい! リルエさん、私の名前はアニエス。覚えてね。今度うちに遊びにいらして。アルオニア王子を交えて、親しくなりましょうね」
「私のことも覚えてちょうだい! 私はユリシア。あぁ、アルオニア様の彼女と友達になれるなんて夢みたい。みんなに自慢しちゃおう!」
話が勝手に進んでいく。焦っていると、女性三人の背後から、聞き覚えのある声がした。
「リルエさんにも友人を選ぶ権利があるわ。あなたたちは三人とも中流貴族。しかも三流大学出。リルエさんに釣り合わないわ」
——シェリアだった。
シェリアは長い金髪をかきあげ、優雅に微笑んだ。
若い女性三人は悔しそうに顔を歪めたものの、シェリアの圧倒的なオーラを前にして、無言で化粧室から出ていった。
シェリアはゆっくりとわたしに近づくと、にっこり笑った。
「会場は、リルエさんの話で持ちきりよ。綺麗で、品が良くて、物事をよく知っていて、気遣いのできる女性。リルエさんなら、アルオニア様の伴侶としてぴったりだと、そう噂されているわ」
「あ……すみません……」
激しい動悸がし、吐き気がする。
「どうして謝るの? 私ね、本当はあなたとお友達になりたかったの。でも、取り巻き連中の目があって仲良くできなかった。初めて二人になれたのだから、ゆっくりお話ししません?」
「でも……」
「お話するだけよ」
シェリアの表情も声も優しい。けれど彼女がわたしにしてきたことを思うと、とてもじゃないけれど、友達になりたいという言葉を信じることができない。
「そうだわっ! リルエさん。パーティーの主催者に挨拶はした?」
「いいえ、まだです」
「主催者に挨拶をするのは、とても大切な礼儀よ」
「だったら会場に戻って……」
「主催者は別な場所にいるの。案内してあげる。挨拶が遅くなると失礼に当たるわ。ついてきて」
主催者に挨拶をするだけなら……。そう思って、シェリアの後をついていくことにした。
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