一章 王子様との出会い

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 放課後の大学。窓から差し込む西日を浴びながら、 教室のごみ集めの仕事をする。  大教室にはまだ生徒たちが残っていて、雑談をしていた。 「邪魔にならないように、こっそりとゴミを集めよう」  各教室から集めてきたゴミが入っている大きなゴミ箱を、生徒たちの邪魔にならないよう廊下に置く。  教室の横開きのドアが全開になっていて、ドア近くで談笑している生徒たちの声が自然と耳に入ってきた。 「アルオニアのダンスパートナーになりたくて必死になっている女って、見苦しいわよね。夢を見るのは勝手だけれど、現実を知った方がいいわ。彼は、歴史ある王室の第二王子なのよ。私ぐらい品格のある女じゃないと、ダンスのパートナーが務まらないと思うわ」  美しくて高い声に、聞き覚えがある。  ——シェリアだ。  いじめられたときのことを思い出し、胃に痛みが走る。 「あれぇ? シェリアったら、いつから王子を呼び捨てするようになったわけ?」 「ふふっ。私たち、急接近してね。親密度が増したの」 「でも、呼び捨てにするなんて……」 「いいのよ。遅かれ早かれ、名前で呼び合う仲になるんですもの」 「えっ! それって、恋人っていうこと⁉︎」 「ふふっ。知っている? エルニシア国民は、恋人ではなく、婚約者を求めているの」 「つまり、シェリア様がアルオニア王子の婚約者になるということですか⁉︎」 「ガーネット。なにを驚いているの? アルオニアに釣り合う女性がここにいるのよ。結婚を見据えた関係になるのは当然でしょう?」  「さすがシェリア! 自信満々じゃん。もうすぐ婚約発表が行われたりして!」 「シェリア様って、家柄がいいし美人だもの。婚約者に選ばれて当然よね!」  目の前が真っ暗になる。足が震えて、立っていられない。  わたしは耳を塞いで、廊下の突き当たりまで逃げた。座り込んでしまったらしばらく立てなくなりそうな気がして、窓枠に手をかけてなんとか立ち続ける。 「なんで……」  急接近して、親密度が増した。そう、シェリアは言った。  それが本当なら、どうして王子は恋人役の仕事をわたしに持ちかけたのだろう? 「僕の彼女になってよ」そう言ったときの、王子の淡々とした態度を思い出す。  王子の考えも気持ちも、全然わからない。 「借金を返すために、恋人役の仕事を引き受けるしかないと思っていたけれど……。シェリア様が婚約者になるのなら、わたしは用済みだよね」  人生が望むどおりにいかないことなど、嫌というほど知っている。  わたしには運がない。タイミングを逃してしまった。……ただそれだけの話なのに、どうしてか胸が痛い。  制服のポケットから、トビンが描いてくれた似顔絵を出して広げる。  目も口もカーブを描いて笑っている、絵の中のわたし。 「トビンとジュニーに、明日は元気になるって約束したのに……。元気になれるのかな……」  甲高い悲鳴に、我に返る。  悲鳴が上がった方を見ると、金属製の大きなゴミ箱が倒れていた。わたしが各教室から集めてきたゴミが、廊下に散乱している。 「誰よっ! こんなところにゴミ箱を置いたのは!」 「すみません!!」  ボブで赤毛の生徒が、わたしを睨みつけた。目尻の上がった目が意地悪そうで、心臓がきゅっと縮こまる。  けれど怯えている暇はないと、慌てて散らばったゴミを拾う。誰かが「素手でゴミを拾っている。惨めね」と嘲笑った。   「……なにこれ」  シェリアが、画用紙を拾った。  血の気が引く。ゴミを拾うことに気がとられていて、トビンが描いてくれた似顔絵を無意識に床に置いてしまった。   「あ、あの! それはわたしのもので、返してもらえませんか!」 「ふーん……」  シェリアはしばらく絵を見ていたが、視線をわたしに移すと、口元を歪めた。
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