一章 王子様との出会い

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 ゾッとするものが背中を駆け抜ける。シェリアの美しい顔に、凶悪なものが混じっているように感じられてならない。 「またあなたなの? 言ったわよね。私の視界に汚いものを入れたくないと。なのに出入り口の前にゴミ箱を置いて、ガーネットに倒させるなんて。私たちに対する嫌がらせをしているわけ?」 「違います! 全然そんな……。今すぐに片付けますので!」  ゴミを集めようとして——シェリアが画用紙を持ったままであることが、気になる。  その絵はわたしのもので、返してほしいと言った。なのに、シェリアには一向に返す様子がない。  心臓が嫌なふうにドクドクと音をたて、背筋に冷たいものが走る。 「あ、あ、あの、返してもらえませんか……?」 「ねぇ、みんな。この絵、どう思う?」  シェリアが、ボブで赤毛の女子生徒——ガーネットに絵を手渡した。  ガーネットは鼻で笑うと、隣にいる男子生徒に画用紙を回した。 「ヘッタクソな絵。信じられないほどにセンスがないわね。体に比べて頭が大きすぎるじゃない」 「んん? なになに? いつもありがとう、だいすき。って書いてあるのか? スペル間違ってるじゃん。これを書いたヤツ、アホだな」 「あなたって、やること全部が貧乏くさいのね。くだらない絵を見て、仕事を疎かにするんじゃないわよ!」 「この絵もゴミなんじゃない?」 「ウケる~! そうだ。この絵もゴミね!」 「違います!! それはゴミなんかじゃ……」  わたしなら、いくら罵倒されてもいい。我慢できる。  けれど、トビンの優しさを踏みにじってほしくない。トビンがどんな思いでその絵を描いてくれたのか考えると、涙が出てくる。  言い返したい。けれどわたしは大学に雇われている清掃員。しかもバイトの身で、彼女らは良家の子女。苦情を出されて、クビにされてしまうのが怖い。  唇を噛んで、怒りと悲しみがごちゃ混ぜになった感情に耐える。  絵が仲間内を回って、再びガーネットの手に戻ってきた。 「シェリア様。この絵、どうします?」 「その絵は、ゴミ箱から落ちたものよ。だってゴミにしか見えないもの。ガーネット、捨てて」 「やめてっ!!」  衝動のままに、ガーネットに掴みかかる。  ガーネットは「キャッ!」と短く叫ぶと、わたしを思いきり突き飛ばした。たまらず、転倒する。  「なんなの、この女っ! 底辺のくせに反抗するなんて、信じられない!!」 「お仕置きが必要ね」  シェリアはガーネットから絵を受け取ると、両手で持った。その手を前後に動かす。  画用紙がびりっと音を立てて、ほんの少し、破れた。  残酷な笑みを深めるシェリア。その手の動きが、止まった——。 「アルオニア様……」  シェリアの大きな目が、さらに大きく見開かれる。  信じられない光景に、わたしは息を呑んだ。  ——アルオニア王子が、シェリアの手首を掴んでいる……。  王子はシェリアから絵を取り上げると、氷のような冷たい声音で言った。 「いじめて何が楽しいの? 君と、君の友人の品格を疑う」 「なっ! なんで、こんな辛気くさい子を庇うの! 貧乏でダサくてのろまで……」 「話せば話すほど、君の品格が下がっていく。君の本性を知れて、僕はおもしろいけどね」 「っ!!」  シェリアはわたしを睨みつけると、足早に立ち去った。仲間たちが慌てて、シェリアを追いかける。  しんと静まり返った校内。  大教室にいた生徒たちの姿はなく、わたしとアルオニア王子だけが、いる
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