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電動の門を開けて、一度マイカが一人で出入りするフェイントを入れてから、2人と1羽はコソコソと公道に出た。中で練習した通りにダチョウの体に跨がる。マイカが前、冬志は後ろ。初心者なので、前後に手すりのような補助具をつけてもらっていた。
もっさりと生えた黒い羽根が、その下の微妙な凹凸が、鳥の体温と共に生々しい感触として足に伝わってくる。慣れるまではこの方がいいと、マイカは冬志の両手を自身の細い体に回した。
「……失礼します」
「フフッ、ちょっとドキドキするね」
ダチョウはプリンセスとその従者を乗せて走り出した。
が、早速、バウンバウンと冬志の体は激しく揺さぶられて、喉のどこかから情けない声が漏れてしまった。
(やっぱ安全第一! 冒険なんて嫌いだ!)
「落ち着いて、足に力を入れて! 家から離れるまでちょっと我慢してね!」
マイカの頼もしい声に縋るように、彼女にしがみついた。ダチョウは乗客そっちのけでマイペースに足を交互に繰り出していく。危険を感じたのか、会う人会う人皆が冬志達から距離を取る。擦れ違った馬までブルルッと警戒するように首を振った。
冬志が周りの風景に意識を向けることができたのは、ダチョウが歩き始めてからだった。
何より、目線が高い。普段と50cmくらい違うのだろうか、誰も彼もが小さくて、3階建ての建物も2階建てのように感じられた。
電柱のない土の通りはまっすぐに伸びていた。両サイドに連なるレンガ風の建物が、赤く、たまに黄色や灰色に、街を彩る。信号も含めてまるでおもちゃみたいだ。レトロな雰囲気の看板も新鮮だったが――。
「は? あれパソコン屋?」
「君の町にはパソコンないの? 不便じゃない?」
「いや……あの大きな箱みたいのは?」
「クリーンボックス。道路のフンをあそこに集めて、発電とか肥料に使うんだよ」
そんな調子でしばしば驚かされながら、東京見物を楽しんでいると、マイカが再びダチョウを走らせた。今度はさっきよりも怖くない。鳥の上にいる感覚に馴染んできたのか、振り落とされそうな揺れも遊園地のアトラクションみたいだ。冬志は笑い出した。
「は、ははは!」
「慣れてきた?」
「うん、少し楽しくなってきたかも」
「よし来た。行っけーハナ!」
ダチョウはさらに速度を上げて走る。
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