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「彼女なんていたことないよ」
さらりと返ってきた答えに安堵すると同時に、
「ナオくん、すっごくモテるのに!?」
昔から女の子にモテモテだった彼だけに、その事実には驚いた。
「……ゆづだって、俺の気持ちは知ってるんだろ」
寂しそうなその一言に、
「あ……」
彼が一生叶うことのない片想いをしていることを思い出した。
「舞が友季に傷付けられたらいつでも俺の所に逃げ込めるようにって、彼女は作らないって決めてるから」
「……」
ナオくんの瞳が突然揺らいで見えて、私は何も言えなくなる。
舞ちゃんが友季さんと結婚して3年が経ったけれど、それでもナオくんはまだ舞ちゃんを諦めてはいないのだ。
「……妊娠したんだって、舞」
「……え?」
「今日は、俺にその報告をするために店に来てたんだ」
あのお店は、仕事終わりの松野夫妻がよく晩ご飯を食べるのに利用していたので、今日のもそれかと思っていた。
「一応おめでとうとは言ったけど……心からは祝えなかった」
ソファーの上に力なく腰かけたナオくんの体が、ボスンッと鈍い音を立てて沈む。
「好きな女の幸せを喜べないなんて……最低だ、俺」
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