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“ビッチって聞いてるから相手して”
だなんて、そういう声はよくかけられるし、慣れているつもりだった。
でも、こんなストーカーみたいなことをされるのは初めてで、とにかく怖い。
いつでも110番出来るようにスマホに番号を入力して、左手に握り締めたまま歩き続ける。
「ねぇ、待ってってば!」
男はまだついてくる。
「……っ」
恐怖で足がもつれそうになるのを必死で堪えて、ついに走り出した。
「ちょっと!」
ちっとも遠くならない男の声に、涙が出そうになる。
どのくらい走ったのかは分からないが、ふと見慣れた店の看板が見えてきて――
私は、思わずその店のお洒落な木の扉を両手で突き押すようにして、店内に飛び込んだ。
カランカランッと澄んだベルの音が鳴り響き、
「いらっしゃいま――えっ? ゆづ!?」
先客におしぼりと水を運ぼうとしていた店員・間宮 直人が、私を見て驚いたように目を見開いた。
私を“ゆづ”と呼ぶこの彼こそが――私が片想いし続けている初恋の相手である。
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