軌跡

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軌跡

翌日、私たちは岩田さんがいるクラブへ向かった。 「すごい人だね。」 「うん。ココはいつもこんな感じ…。俺の手を離すなよ。」 「うん。」 怜の手を握り直し人の間をぬって岩田さんがいる所へと向かった。 「うわっ。」 「るる!」 「怜!」 次のステージで人が押し寄せ、私達の間に人が入ってきた。 「どうしよ…はぐれた。」 いきなり腕を引っ張られた。 「こんばんは。」 目の前に岩田さんが現れた。 〈なんだか嫌な雰囲気。〉 「…こんばんは…。」 「怜さんとはぐれたの?」 「はい…。」 「じゃー上から見たら?」 「上?」 「そ!あそこ。」 そこはホール全体が見渡せるガラス張りの部屋。岩田さんに腕を引っ張られ、その部屋へと導かれた。 「あそこの窓越しに下を見たら?」 「…ありがとう。」 すごい数の人で、怜をなかなか見つける事ができないでいると…後ろから 「見つかった?」 「……………。」 「俺は見つけたけどね…。」 「どこ?」 「さぁ〜ね。自分で見つけなよ。こっちを見てるよ。」 窓ガラスに付いている私の手の上に手を重ね、肩に顎を乗せてきた。 「怜さんが気に入ってる理由がわかったよ。」 「やめて…。あ、怜!」 「見つけられた?」 もの凄い形相でこっちを見てる。それがわかってて岩田さんは更に挑発するように耳を噛んできた。 「お願い…やめて…。」 「やだね。怜さん来れるかな…。」 私は窓から引き離されソファに投げられ両手を押さえつけられた。 「怜に会わせて。」 「自分の立場わかってる?」 「……………。」 「るるちゃんのこと壊すことくらい簡単なんだよ。」 「岩田さん…お願い…怜に会わせて…。」 「今日限りで怜さんから離れる?」 「……………。」 「返事しないとホントに壊すよ。」 「わかった…。」 涙が溢れた。こんな日が来ることはわかっていた。でもやっぱり悲しい。もっと早くに怜に会いたかった。 「そ!じゃ〜味見程度にしとこーかな…。」 岩田さんが首に顔をうずめてきた。 「嫌!」 「るる!陸…何してんの?」 「怜さん、俺の忠告無視するのやめてくれますか?」 「わかってるよ。でも放っておけなくて…。」 「そういうの優しさじゃない。今回は…たまたま…。」 「わかってる。」 「わかってないね。怜さんは、るるちゃんを危険な目に合わせるかもしれなかったのに。」 「怜?」 「るる…ごめんな…。」 「怜は最初からわかってたんだよね?」 「うん…。」 「私の為に恋愛ごっこしてくれてたんだよね?」 「それは違う。最初から話すから。」 「俺らの依頼人は、るるちゃんのお母さん。」 「俺ら?」 「そ!陸と俺はペアなんだよ。」 「るるのお母さんから連絡があって、あの部屋にるるが居るからって。だからお母さんにるるの携帯に電話してもらって陸の指示に従って貰いながら一人芝居をしてもらった。」 「私は確かにお母さんと会話したよ。」 「俺らには、るるの声が聞こえるからね。陸がお母さんに返事の指示をだしながら電話してたってこと。」 「それから怜さんだけが部屋に行った。」 「そして…私と対面…。」 「うん。初めてるるを見た時あまりにも自然体でキレイで眩しかった。」 「それで怜さんは放っておけなくなったんでしょ?」 「うん…。本当はサッサと仕事して終わりにするつもりだったんだけど…るると毎日過ごすうちに…どんどん惹かれて行って…。」 「怜さんには何度も好きになっちゃダメだって忠告したのに。今回は、たまたまるるちゃんが思い出せたから良かったけど、怜さんに執着する事にでもなったら…るるちゃんも変化するし怜さん自身も持って行かれるからね…。」 <初めて岩田さんに会った時の怜と岩田さんの間の空気感は怜が岩田さんの忠告を聞かなかったことに対して怒ってたんだ。> 「怜?」 「ん?」 「私が思い出すことも、もしかしてわかってた?」 「初めからわかってたわけじゃない。バーベキューの時に、るるの携帯にあの日の事が出てきたのを見て時間が動き出したと確信した。」 「じゃ〜結婚式の話も?」 「うん。その話が出たから、あの場所にるるが現れるのを待ってた。んで、るるが遮断機をくぐる手前で引っ張った。もう思い出せたと思ったから、あとは…るるとの幸せな時間を残したくて…。」 「私、過去の自分と向き合っても怖くなったら怜に甘えればいいと思えたから…怜が居てくれたから…全部を思い出せたんだと思う。」 「るる…。」 「怜…ありがとうね。私は結婚式のあと、本当は…あの場所で遮断機をくぐったんだね…。」 「……………。」 怜は黙ったまま。岩田さんが代わりに答えた。 「そうだよ。」 「岩田さん怜のことごめんなさい。」 「るる…。」 「さっき岩田さんと約束したの。今日限りで怜から離れるって。これ以上一緒に居たら今度は怜から離れられなくなっちゃう。私が危険な目に合うって、そういうことなんでしょ?」 「そ!今のままのるるちゃんじゃ居られるなくなる。変化して執着するようになって本当に地縛霊みたいになっちゃう。」 怜から抱きしめられた。今まで毎日抱きしめられていた心地良さで涙が溢れた。 <願わくば…この感覚と温もりを忘れたくない。> 「ありがとう。お母さんにも心配かけてごめんって伝えて欲しい。」 「うん…うん…。」 「私…死ぬ前に怜に会えてたら人生変わってたな。命を粗末にしたらダメだったね。」 「バーカ。気づくのおせーんだよ。」 「あ!でも死んだから怜に出会えたんだよね?」 「生きてても必ず見つけ出せてた。お前の肩は俺のお気に入りだから…。」 「怜さん…そろそろタイムリミットだよ。」 「うん。わかった。もう少しだけ…。」 「もう十分抱きしめて貰ったし私本当に幸せだよ。」 「抱きしめ足んねーよ…。」 「怜…泣かないで…。私…逝くよ…笑。」 怜はオデコにキスをして唇にも触れてくれた。 「逝っちゃいましたよ。」 「うん…。」 「怜さんマジで泣いてんの?」 「だって…ホントに綺麗だったからさ。大抵この世に気持ち残ると変わっていくじゃん?」 「うん…。」 「だけど、るるは綺麗だったんだよ…。」 「それは自分が死んでることに気づいてなかったから。怜さん感情移入し過ぎ!」 「わかったよ。」 「やったでしょ?」 「うん…。」 「あっぶな!形ない者との行為は命を削るんだよ!」 「あーもーそんな怒んなよ。寂しいやつだな。」 「飲みに行きますか?」 「飲む!陸ちゃん…今日…一緒に寝て!」 「嫌っす!」 「えーーーーー寝れない…。」 「今日だけっすよ。」 「陸ちゃん…愛してる。」 後日…るるの母親とマンションの片付けに行った。もう、るるは居なかったが、そこには確かに俺とるるが同居していた幸せの軌跡があった。 おしまい 最後まで読んでいただきありがとうございました(*´˘`*)♡ 素敵な年末年始をお過ごしください。また来年もよろしくお願いいたします。
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