出会い

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出会い

彼女の名前は「相澤るる」二十七歳独身。本当なら今頃結婚して幸せな日々を送ってい たはずだが、最愛の恋人を事故で亡くし、その日から彼女の中の時間は止まったままで、 リアルな時間が進んでいるだけの無機質な日々を彷徨っている。そんな彼女の日々に俺が が加わった…彼女を救うために。 ジリリリリ、ジリリリリ。 今日は珍しく朝から携帯が鳴った…携帯の画面には《お母さん》の文字が… 「もしもし?お母さん?どうしたの?」 「るる。部屋、ひと部屋空いてるわよね?」 「うん…空いてるよ。それがどうしたの?」 「ちょっと友達の子を新しい部屋が決まるまで預かることになったの。」 「え?いくつの子?」 「二十九だったかな。」 「へ?私より年上なの?」 「もう決まったことだから、仲良くしてあげてね。じゃ、よろしくね。」 「ちょっ。はぁもぉ!いっつも一方的に用件だけ言って切るんだから。」 ピンポーン びっくりするようなタイミングで玄関のチャイムが鳴った。 「はーい。」 ガチャガチャ 〈え?〉 玄関扉の鍵が回転し…外の空気が部屋を通り抜けた…光の先に見知らぬ男が立っている。 互いの顔を見合い、時が止まったかのように、その場に立ち尽くした。 「男?」 先に言葉を発したのは私だった。 「女?聞いてねーし。」 男は吐き捨てるように言った。 「いや。それ、こっちのセリフだし。男だとわかった以上同居は無理だから。」 「とりあえず、入れてくんない?」 〈私の言った言葉は聞こえてましたか?〉そう心の中で呟いてみたが、そんな私の心の 声なんて聞こえるはずも無く、二十九歳の男はズカズカと入ってきた。 「俺の部屋どこ?」 「ちょっと待って。」 「あ?」 「無理があるよね?」 「何が?」 今度は私の言葉が聞こえてるみたいだ。 「ひとつ屋根の下に見知らぬ男女が一緒に暮らすってこと!」 「どうして?」 「どうして?」 〈何言ってんの?コイツ〉 「いやいや、無理だから。」 「俺、あんたに興味無いから。とりあえず次の部屋が見つかるまでの繋ぎだしあんたが想像してるようなイヤラシイ事は無いよ。」 開いた口が塞がらないとはこのことだ。そこまで言われるなんて、返す言葉が出てこなかった。私の完敗だ。 「あっそ!じゃ〜ご自由にどうぞ!」 二十九歳の男は…大きな荷物を抱えて部屋に入り、しばらくして出てきた。 「あのさ…シャワー浴びたいんだけど。」 「あ〜こっち…タオルはココだから。脱いだモノは、このカゴに入れといて。次の日に私のと一緒で良かったら洗濯しとくし…嫌なら自分で洗って。」 「……………。」 「って、ちょっと私が説明してんだから、最後まで話…え?え?ちょっ脱がないでよ!」 「悪いけど、俺、急いでんだよ。そのまま、そこにいる?あとパンツ脱ぐだけだけど?」 私は…急いでバスルームから出た。 〈なんなのよ!はぁ〜もぉ〜ムカつく 。〉 自分のペースを乱されまくり、イライラした。そんな私の気持ちなんて御構い無しな彼は能天気にバスルームから出て来た。 「ふぅ〜サッパリした!なんか飲みモンある?」 「冷蔵庫に水が入ってる。」 彼は、冷蔵庫を開けて水を一本取り出し、ゴクゴクと喉仏を上下させながら水を体に流し込んだ。 「ああ、生き返った。」 〈在り来たりな一言。〉 「つかさ、何か着れば?なんでパンイチで出てくるかな…。」 「何?男の裸とか見慣れてないの?もしかして…処女?」 「は?バッカじゃないの!」 〈デリカシーのカケラも無い。〉 私は…その場を去ろうとソファから立ち上がった。が、しかし腕を掴まれ引き戻された。 「名前…」 「へ?」 「俺の名前は、太田怜。お前は?」 「相沢るる…」 「歳は?」 「二十七…」 「ふーん…彼氏は?」 「どうして、そんなことまで言わなきゃなんないの?」 「だって…俺がいたらイチャイチャできないだろ?そういう時は言ってもらえれば、帰って来ねーし。」 「ご心配なく。居ませんから。」 「ぷっっ(笑)居ねーんだ(笑)」 〈いちいち腹たつ奴。ブッ飛ばしてやりたい。〉 「そんな自分はどうなのよ?」 「俺?特定の女とか作らない。つか、女に困って無いから。」 「あっそ!モテてます!ってアピるんだ。」 「アピってるわけじゃねーよ。事実を言ってるまでだから。」 「はいはい。じゃー自己紹介も終わったし、さよなら。」 「今日の晩飯どうする?初夜だから、一緒に食う?」 「初夜って…間違いじゃないけど、言い方!」 「俺…直ぐに出ないといけないから、終わったら飯食いに行こ。連絡すっから、連絡先教えて?」 私の携帯を彼に渡すと手慣れた感じでお互いの携帯へ電話番号を登録した。 「はい。完了。んじゃ、また後で。」 こうやって、怜との同居生活が始まった。
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