59人が本棚に入れています
本棚に追加
温もり
リリリリリ♫リリリリリ♫
画面には《怜》の文字が出てる。
「はい。」
「あ、俺。」
「用事終わったの?」
「うん。今から言うとこに来て。」
「わかった。」
電話を切り、言われた店へ向かった。落ち着いた雰囲気の和食屋さんで、少し高そうな雰囲気だった。
私は入り口で彼の名前を告げると、奥の座敷へと案内された。
「待たせてごめん。」
「いや、俺も今来たとこ。」
それぞれ好きな物を頼んだ。
ちょっとお箸の持ち方が変だなと思ったけど、それ以上に美味しそうに食べる姿が可愛くて、第一印象とのギャップを感じた。
「それ、なに?」
「え?揚げ出し豆腐だけど?」
「ちょっと頂戴。」
「いいよ。」
「俺のも食う?」
「うん…。」
今日会ったばかりなのに、前から知り合いだったかのような接し方に驚きつつも、彼のそういう態度が私の警戒心を少しずつ解いていった。
「るるって好きな食べ物とかあんの?」
「へ?」
急に名前を呼び捨てにされてドキッとした。
「俺は、ハンバーグかな〜るるは?」
「私もハンバーグ好きだよ。」
「んじゃ、今度ハンバーグの美味い店をお互いピックアップして食べ比べてみようか?」
「うん。良いよ。」
ハンバーグか…彼と行ってたお店…懐かしいな…。
「食った〜。腹イッパイ!」
「うん!」
「帰ろっか?」
「うん。」
彼は、さっさとお会計をして、タクシーを頼んだ。
「あ!私も払うよ。」
「いいよ。次で。今日は、これから世話になるから奢る。」
「わかった。ありがたく奢ってもらう。」
タクシーに乗ってすぐ、私の肩に頭を乗せて来た。
〈なに?〉
スースーと寝息をたて始め、どうやら寝てしまったようだ。彼を起こさないように、自宅に到着するまで肩に彼の頭を乗せたままの姿勢を保った。
「ちょっと。着いたから起きて。」
「んあ?着いた?」
タクシー代を支払い、私たちはマンションのエレベーターへと向かった。彼はエレベーターの中でも私の肩に頭を乗せて来た。
「ちょっ、直ぐ着くんだから起きててよ?」
「んあ…お前の肩気に入った。」
〈この男は、こうやって女心を掴むんだろうなと思った。〉
ガチャ
「ほら、眠いなら寝たら?」
「ん。部屋まで連れてって。」
肩に頭を乗せたまま自分の部屋を指さす。
〈私はあんたの母親じゃないっつーの。〉
「あのね〜。私は…あんたの…うわ!ちょっっ。」
腰に手までまわしてきて、完全にコアラの親子状態。
「はぁ。靴脱いだ?」
「うん。」
「歩くよ?」
「ん。」
〈コアラペンギンだわ。〉
そう心の中で呟いた。部屋の中に入り、子コアラを下ろすのにベッドに腰かけた。
「うぉっっ。」
私の腰に手を回したまま倒れ込んだ彼と一緒に私もベッドに倒れてしまった。
しばらくすると、寝息が聞こえてきたので、腕を解き、翌朝シャワーを浴びることにして、彼の部屋を出て、自分の部屋で寝た。
〈久々に人の温もりを感じたな。〉
そんな事を思いながら眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!