三月のふたり目

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 全ての指のつけ根を、全ての関節を、手のひらのなめらかさを、手の甲のわずかな骨の感触を。僕たちは確かめた。  次第に汗ばんでくる。熱くなっては離れそうになって、また絡まる指先。  穴の周囲に貼られたゴムにときおり手首がぶつかる。  痛くない。もどかしい。繋がりたい。  僕はアルゼンチンを見た。震えている。今日はエアコンは切っていた。  僕の息で、剥がれかけの南米の先端がひくひく揺れている。  欲望が高まって、目の奥がつんと痛む。こんなにも真剣に求めている。  ミオは受け入れられないのに。  しゃくりあげるような声がした。 「手術するの」  僕はミオの手を強く握った。 「ホルモン剤は飲み続けなければならないの。だけど、手術して。身体の中も外も手術をして、ちゃんとしたわたしになるの。お金を出してくれるひとが見つかったの」  おめでとうも、さようならも、言葉にすることが出来なかった。  僕はモニターを見なかった。  指から力が抜けていく。  ミオの手指が僕から離れていく。  壁に耳をつけ目を閉じる。耳を澄ます。指先に、湿ったような感触だけを残して。 《 完 》
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