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あえぎ声が大きくてよく喋る。坂田さんはそういうタイプのお客さんだった。
実況してくれるのは、分かりやすくていい。
たまに女の子の名前を呼ぶ。
僕はオーストラリアに左耳をくっつけながら、南アメリカ大陸の、ステッカーが剥がれかけてちょっと壁から浮かんでしまったところを見つめる。
きっとアルゼンチンとチリの先っぽ。
いく、とか。最高だとか。いい、とか。
坂田さんは騒がしくも礼儀正しく上り詰める。
穴から突き出した坂田さんの性器から白いインクがほとばしる。
僕はそいつを浴びてしまわないようにだけ、気をつける。
床にはペット用のトイレシートが並べてあって、大縄跳びの縄がよじれて落ちるみたいな射精を受け止める。
穴から千円札がねじ込まれる。今日は三枚。
右手から手袋を外し、急いで受け取る。落とすと精液まみれになる。
お札を受け渡すときに、僕と坂田さんの手がわずかに触れ合う。
「会社に戻って起案書やっつけるかなあ」
壁の向こう側、備え付けの洗面台で、坂田さんが身支度を調えている水音。
正午から夕方六時か七時まで。僕の好きなシフト。
そんな時間に客が来るのかと思うけど、来る。
鬱憤だかストレスだかを僕の手で抜き落として、坂田さんはオフィスに帰っていく。
「また来てくださいね」
僕は伝える。存外本気だ。坂田さんは良客だ。
「うん。何だか普通のセックスに戻れないんじゃないかって、不安になるよ」
普通のセックスは自分だけ快楽を貪るわけにいかないし、自慰はむなしくなる。
だから坂田さんはここへ来る。
坂田さんは僕よりいくつか年上。
この建物を出てしまえば、坂田さんは感じの良い営業の坂田さんに戻る。
もっとも坂田さんは穴に突っ込んでいるときも悪い感じではない。
だけど、こういう人ほど、女の子には高圧的になったりするのかな。
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