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大晦日/元旦
オーナーはだるまさんのような、ご利益がありそうで、なおかつ、むさ苦しい風貌をしている。
いつも菓子パンが手放せない。煙草をやめたからなのよ、と彼は言う。
ミオが連れてこられたのはまだ秋の始めだった。
オーナーは夜の街で路上に座っている女の子に声をかける。
お金を払わずに一晩過ごせて、ちょっとした労力で儲けられるところ。
身体を売る必要も顔を見られる心配もない。都合がよく聞こえる。
定着する子はなかなかいない。
オーナーに連れられてきたばかりのミオに手順を教えたのは僕だ。僕のやり方を伝授した。
ミオは神妙な顔で穴を見つめていた。
マスクを外さないので表情は分からなかった。目元のメイクだけは濃かった。
体型の分からない、もさっとしたスエットを着ていた。
ミオの前で一度だけ、サービスのお手本を見せた。やはりオーストラリアに耳をくっつけて。
客が達するのを見て、ミオは後ずさった。
大晦日の夜八時。ミオがやって来る。金色の小さな箱を手に持っている。
リボンのかかったチョコレートの詰め合わせ。ちょっと高級なやつ。
売り上げに貢献していた子が辞めるときにオーナーが渡してくれる、ささやかな感謝の印。
「何時まで?」
ミオは目を合わせない。
「六時」
「初詣に行こうよ」
僕は誘った。
女の子を誘うにはあんまりにも、この世の終わりみたいな場所。ミオはここを巣立つ。
もう会えないのだなと思った。
それに今日は大晦日で、あと数時間で新年を迎える。だから何だっていうんだろう。
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