十二月

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十二月

 覗いてはいけない。  お互い顔は知らない。そういうことになっている。  僕は右手だけを差し出す。差し招いて、引っ込める。  客は壁に開いた穴に入れる。  僕は穴のこちら側で待っている。    いろいろな形のものがある。  小さいもの、大きいもの。  皮を被ったもの、被っていないもの。  膨張したもの、縮みあがったもの。  客の準備が出来たのを待って、僕は手袋をはめる。  ぴたっとしたプラスチックグローブ。クリーム色。  客はどちらかを選ぶ。  客自らが避妊具をつけるか、僕が手袋をつけるか。  たいていの客は避妊具をつけたがらないし、僕にとっても、避妊具をつけた客をいかせるほうが難しい。  こちら側の壁はつるりとしたリノリウムのような素材になっている。  昔は白い壁だったのだと思う。  今は薄だいだい色と茶色の入り交じったみたいな色になっている。下に行くほど色が複雑化する。  壁際にパイプ椅子を寄せている。  僕の頭の位置には世界地図のウォールステッカーがある。誰がそんなものを貼ったのだろう。  黒いステッカー。  デフォルメされた五大陸がひとつひとつシール状になっている。  残念ながら日本は見当たらない。ステッカーのデザインの段階でユーラシア大陸の一部に吸収されたのか、すでに剥がれて落ちたのか。  僕が壁に耳を付けると、ちょうどオーストラリアのあたりで耳を澄ますことになる。  南極のもうちょっと下あたりに穴が位置する。  坂田さんは常連さんだ。営業の合間にやってくる。  アキくん、と僕に呼びかける。僕が男だということを知っている。  壁越しに坂田さんは喋る。  僕が聞いていても聞いていなくても関係ないのかもしれないけど、やっぱり聞いて欲しいものなんだろうと思う。  納期が短縮されて、坂田さんは現場から怒られる。  現場の苦労なんて何にも分かっちゃいないって。でもその案件を取らないわけにいかないし。  現場の担当者は美人だけど目がキツい、親会社の受付の子は可愛くて、一回やりたい。一回やったら興味をなくしそう。  でも一回やりたい。  温めておいたローションを手袋の上に垂らす。  坂田さんの性器は八割方出来上がっている。  僕がローションをつけた手で上下にこすってあげると完全に立ち上がる。  はじめは先端の方だけを刺激する。  ネットで調べた知識に指導と経験が加わっただけのことだ。  たっぷりローションをつかって優しく刺激する。  穴の周りにはグレーのゴムが貼ってある。ぶつかったり擦ったりしても痛くない。  グレーって色は一番汚れが目立たないかもなって思う。
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