第1章 俺が俺じゃない

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「ねぇ!待って!佐伯!」 「…俺?」 久しぶりに見たカズは相変わらずの塩対応で、面倒くさそうに振り返った。 「そう!なぁ、一緒に帰ってもいいか?」 「…いいけど。なんで?」 「なんでって…。席前後だし!仲良くしよ」 カズは訝しげな目で俺を見てきたが、一緒に帰ることは了承してくれた。 校門を出て最寄り駅までの間で俺らはそこそこ仲良くなれた。 と言っても、俺が一方的に話してるだけではあったけど。 それでもカズが電車を降りる時、笑ってくれただけで俺の心は満たされたのだった。 このまま勝の時のように仲のいい友達になりたい。 恋人、にもなりたいけどこの姿でなるのはちょっと悔しい。 とりあえず明日からもバンバン話しかける! そう決意しながら今の俺の家に帰る。 「ただいま」 「おかえり、翔。入学式お疲れ様。これからクッキーを焼くの。出来たら呼ぶからそれまでゆっくりしててね」 「うん。ありがとう」 佐々木翔の家はお金持ちだ。 退院して、ここがあなたのおうちよ、と連れられた時はびっくりした。 広すぎる部屋とプール付きの庭、大理石のお風呂とまるで漫画の世界だった。 それでもお手伝いさん的な人は居らず、家事は母が全部こなしている。 ふわふわ、おっとりしているように見えるがすごい人だ。
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