断捨離し損ねていた、そのトキメキは

　香奈は、今、ワンピースを縫っているに違いない。最近ハマっているというパターナー、濱口明日香の型紙をいくつも見ながらウキウキ選んでいたのはつい昨日だった。いつもながら、香奈の手は速い。

　瑠花が荷物を置きながら、もう一度そろりと香奈へ視線を遣る。鮮やかな配色のプリントは、ホラグチカヨのデザインだろう。この人も香奈のお気に入りだ。画集も持っているらしい。

　香奈の集中を邪魔せぬよう、音を立てぬよう椅子を引く。ゆっくりと座り、瑠花も手提げから取り出して自分の準備をしていく。
　瑠花はＶネックTシャツを制作中だった。瑠花のお気に入りは、姉のバイト先であるmaffonのジャガードニットだ。とにかく掛け値なしに手触りが良い。そして、単色から二色で編まれたデザインの、プリント絵にはないぎこちなさが心震えるほどかわいいのだ。
　が。そんなこだわりの布を使ったこだわりのＶネックが、どうしてもうまく行かなかった。既に３回やり直しており、今日は４度目だ。“三度目の正直”と意気込んで取り組んだ前回も胸の中央に位置するV部分が歪になってしまった為、今日は、始める前から終わったような気持ちになっている。