断捨離し損ねていた、そのトキメキは

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 瑠花は、大抵、家庭科室で放課後を過ごしている。手芸部としての活動は水曜日だけなのだが、塾がない日は家庭科室につい寄ってしまう。  家庭科室は、北棟の三階東端にひっそりと位置している。一年生の教室は南棟三階に並んでおり、瑠花は、階段を使わずに二つの棟に架かる渡り廊下で直接家庭科室へ向かうことができた。  だから、瑠花の到着は誰よりも早いのが常だった。  が、ドアを開けようとして、中から軽快な連続音が聞こえてくるのに気がついた。思わず足が止まる。  耳を澄ませて確認するまでもなく、ミシンの音だ。家庭科室のミシンは、手芸部の部員なら好きに使って良いことになっている為、状況として何らおかしいことはない。それでもつい探るように視線を部屋の中へ滑り込ませながら、瑠花はそろそろと引き戸を開けた。
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