行く先はわからないけれども

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 女子高を卒業した後、どんな大学に入り、どんな職場で働いたかで、こんなにも人生に敷かれたレールは違うものなのだと、年を経るごとに実感した。  私はと言えば、SLのような大学で終点まで行ったあと、古びたエレベーターのような一族経営の会社に入った(実際そこは、エレベーターの点検費用をケチるような会社で、客を閉じ込めて故障したのを何回も見た)。一年で辞めて、二度と一族経営の会社になんか入るものかと肝に銘じた。  そのあとは、人力の一両編成列車のような会社に入った。ひとりひとりの努力は認められるものの、限界が来た人たちがじわじわと脱落していった。やり方が時代に合わなくなってきても、マンパワー以外の動力がないのだ。  自分自身のための動力がなくなる前にそこも辞めた(ただし、一番長く続いた)。そして次に入った会社は、最新の特急列車だった……が、実はそれはよくできたハリボテで、動力は先の会社と同じ人力だった。しかもタチの悪い事に、外からはわからないような一族経営で、一族は裸でその列車に乗って下僕の社員にハリボテ列車を走らせるようこき使った。すぐにも辞めたかったが(実際、契約違反の仕事をさせられた)、乗客に同情して三年もいてしまった。  最後の会社は本物の超特急列車だった。動力も人力ではなかった。乗客のみならず、技師である私たちも大事にしてくれた。しかし、えこひいきが激しく、外様の私は愛想のなさと年齢を理由に排除され、最後は自分の意志で列車を降りた。  〝列車〟の行く先は決まっているので安心だ。しかし、最近では〝廃線〟や思いがけない〝事故〟も増えている。ーー私はこれまで出勤に必要だったヒールを捨てて、スニーカーを買った。  初めて家の近所に満開の桜並木があるのを知った。大通り以外の細い道が街にはたくさんあるのも知った。日中しか開いていない小さな店の存在にも気づいた。  ーー行く先は不明。でも、軽やかに私は走り出す。
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