動き出す

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 登下校に三人一緒。僕を真ん中に左に由佳で右に美優。この姿はクラスメイトから連行と呼ばれている。たまにどちらかがいないと僕は逃亡中と言われたりする。僕は決して犯罪者ではないはずだけど。 「拓人、今日はちゃんとスマホ持ってきた?」 「持ってきたよ」  由佳に言われて僕はコートのジッパーを下げて首から下げているスマホを見せる。僕があまりに勝手にあちこちに行くものだから親が仕方なく僕に持たせたものだ。僕が誰かにかけることは許されてはいなくて着信専用のスマホだ。 「それないと心配だものね。逃げた犬とか追っかけて行方不明になったりするものね」 「美優だって似たようなことするじゃんね?」 「私は拓人みたいな体力おばけじゃないもの。一緒にしないでよね?」 「はいはい。拓人も美優もそれまで。あと拓人、ハンカチある? ティッシュもちゃんとある? 予備の手袋と靴下ちゃんと持ってきた?」  由佳からの持ち物チェックももうずっと続いている。忘れっぽい僕のために毎朝事細かに聞かれる。何かしら忘れると由佳のランドセルからひょいと出てくる。余程僕のことが心配なのだろう。  美優は流石由佳だねといつも感心するが、美優からの持ち物チェックはされたことがない。ただ由佳と僕のやり取りを見て笑っている。 「きっと子供ができたら、そうなるんだろうなぁ」  美優はそう言うがまだ子供の僕らに大人の予想なんてつかないはずだ。きっと大人になるってもっと大変なはずなんだ。  由佳の持ち物チェックを終えて学校の靴箱を開ける。 「あらラブレター?」  美優が突然にそんなことを口走った。 「また美優にラブレター?」 「うん。なんかなぁ」  美優はなぜかよくモテる。猛毒の花の片割れなのに一月に一回はラブレターが届いている。 「どうせまた断るんでしょ?」  由佳はサクサクと上履きを履いて呟く。ぶっきらぼうの言い方なものだから、周りから見れば怒っているようにも見えるそうだ。 「もちろん。私、恋愛とかあんまりねぇ」 「ドラマは好きなくせにね」  こんなやり取りを交わす由佳と美優は周りの評価は理解不能とされている。決して問題児なのは僕だけではない。  これもいつもの日常なのに、由佳と美優は視線を合わせて同時にため息を吐いた。 「柄じゃないよね……」 「うん。柄じゃない……」 「何の話?」  なんの事か分からずつい僕は聞いてみる。 「もうすぐ分かるよ」  美優はそう笑って、その話はそこで終わった。美優は今回もラブレターの相手に綺麗にお断りを入れた。
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