0人が本棚に入れています
本棚に追加
おおよそ半分を超えたころだろうか、次第に思考が鈍り始める。息が乱れて、足を上げる度に痺れるような痛みが伴う。発散しようとした熱が余計にこみ上げて来て、全身を燃やしている。
そもそも私は運動が嫌いだった。
なんで陸上部に入って放課後に好きでもないのに全力で走らなきゃならないんだ。
なんで苦しまなきゃいけないんだ。
なんで、凪のことを考えなきゃいけないんだ。
これも全部、全部凪のせいだ。
凪のことばかり考えている自分のせいだ。
もうすぐゴールというところで凪は今どこを見ているのか気になった。こちらを見ているのか。視界にちらりと写る彼女の視線は走る私の視界では捕らえられなかった。
見ているといいなと思った。
そのままゴールラインを踏んでゆっくりと歩く。走り切った時の爽快感などはなく、燃やし尽くそうとした感情は今も身体の中に残り、くすぶっている。
やっぱり運動は嫌いだ。
「記録は?」
しっかりと息を整えて、クールダウンしてから凪に聞く。
「んー取れてないや」
「…」
「ごめんて」
平謝りをする顔には、反省の色なんて浮かんでいない。
「もう一回行こっか」
「は?」
途中で止めろとか、よそ見するなとか、佐月さんだったらとか、色々込み上げてきそうになるのを抑える。
こいつにとっては私もどうでもいい人間の一部に過ぎないのか。
「今度はちゃんと見とくよ」
軽薄そうな顔は何度も走らされそうな、何も確証もない言葉にまた腹が立つ。
そんな言葉に喜んでしまいそうな自分に尚のこと腹が立つ。
「…次見てなきゃ承知しないから」
実際、何度も走らされるのだろう。
走ってしまうのだろう。
息苦しくて、きっとゴールにはたどり着けない。
それでも、私はどうしようもなく走ってしまうのだろう。
凪と一緒にいる限り、私はきっと走り続ける。
最初のコメントを投稿しよう!