いつも一緒

7/7

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
それから十年後、私は相変わらず彼と一緒にいる。 彼はあの後ドナーが見つかって、移植手術に成功。今では数ヶ月に一度通院する以外は普通の生活を送れている。 この十年の間に、私達は色々な場所に行った。水族館、動物園、遊園地、美術館、映画館、海、温泉、キャンプ、それから何度か海外も。 彼は入院中、私が「お兄ちゃんが治ったら一緒に行きたいね」と話していた場所を全て憶えていてくれたのだ。彼に惚れ直したのは言うまでもない。 今日はそんな彼と墓参りに来ていた。 毎月、月命日に私が好きだったピンクの薔薇の花を持って、彼はこのお墓を訪れる。 「ドナーの名前は教えられないって言われたけど」 彼がお墓に向って話しかける。 「俺は、お前がドナーだって、俺の中にいるのはお前だって、思ってるよ」 十年経った今も、彼は毎月そう言って静かに涙を流すのだ。 そう、彼の中にいるのは私。 あの雪が降った日、私はバス停に向かう途中に、スリップして歩道に乗り上げた車に轢かれたのだ。 彼の病気を知ってから、念のため保険証の裏の臓器提供意思表示欄に提供する意思を書いておいたのが役に立って、私は晴れて彼の一部になることができた。 私達はずっと一緒だよ、お兄ちゃん。 だから私がお兄ちゃんと一緒に行きたいと言っていた場所に訪れては泣くのをやめてほしい。 私はお兄ちゃんとひとつになれて幸せなのだから。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加