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校門を出ると同時に、私は走り出した。
肺に大量に入ってくる冷たい空気に咳き込みそうになりながら、住宅街を走り抜けて大きな通りに出ると、ちょうど目的地行きのバスが来たところだった。ほんの少し迷ったけれど、バスに乗ることなく走り続ける。
帰宅ラッシュのこの時間は道路が渋滞するため、走った方がはやい事も多いからだ。
そのまま走り続けること20分、結局私はバスより先に目的地にたどり着いた。
街の外れにある大学病院。
ここに半年前から幼なじみの彼が入院しているのだ。
病院の前で息を整えてから中に入ると、迷うことなくエレベーターに向かい3階のボタンを押す。
もう数え切れないほど通っているから慣れたものだ。
そうそう、彼がいる個室の前で笑顔を作るのも忘れてはいけない。
よし、ちゃんと笑えているよね。大丈夫。
「来たよぉ」
努めてのんきな調子で言いながら病室に入ると、少し上半身を起こした状態のベットで本を読んでいた彼がこちらを向いて笑顔になった。
「今日も来てくれたんだ。ありがとう」
その弱々しい、けれど花が咲いたような笑顔に、ギュッと胸が締め付けられる。
ああ、私はやっぱりこの人が大好きだ。
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