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そこは初めの場所と同じように、真っ白な空間が広がっていた。ただ、前方に人影があった。
「犬塚風斗。ゴールだ。おめでとう」
だんだんと近づいてきた人影は、風斗の姿をしていた。
「ああ、この姿は仮だよ。実体は無いに等しいから君の姿を借りているんだ。嫌だったらリクエストに応じて違う姿にもなれるよ」
神はリクエストに応じて黒い犬の姿になった。
「それで、君が気になっていることについてだけど」
風斗は黙って次の言葉を待った。
「残念だったね。君は2着。とても惜しかった」
風斗は静かに微笑んだ。無理矢理微笑んだ。
「実はね、君の父親も過去に選ばれていてね。優勝したんだ。彼の願いは、君の母親になる人の不治の病を治すこと。そればかりか、こんな事ももちかけた。将来、子供が生まれて、その子の命が危険になったら、代わりに俺の命を奪ってくれ、と。自らの命をかけた願い。特別に聞き入れたよ。とても私の好みだったから」
神は心底楽しそうに笑った。
「だから、その命、大切にすることを勧めるよ」
意識が遠のいた。
目を覚ますといつものベッドの上だった。
風斗は引き出しから、折りたたみナイフを取り出した。
「これは、もう、必要ないかな」
素直な涙が、自然な笑みが、こぼれていた。
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