時空走者

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 空間に声が響く。声だけが響く。 「ここはどこ」 「あなたは誰」 「一体どうなっているの」  立て続けの質問にその声は答えた。 「ここは君たちの世界と切り離した私の空間。そして私は君らの言うところの神。君たちは時空走者として私が選び、ここへ連れてきた」 「持久走?」 「。君たちには時空を走り、私の元へ辿り着いて欲しい。最もはやく来た者には何でもひとつ、願いを叶えよう」  その言葉に皆の顔つきが変わった。 「そんなこと、信じろって?」 「信じる者は救われるよ。どの道ゴールしないと元の世界には戻れない」 「どうしてこんなことを?」 「神の余興、と言ったら怒るかな?でも、12年に一度、12人のうち1人の願いを叶える。君らが生きるずっと昔からやってきたことなんだ。切なる願いを持つ者にチャンスを、とね」 「願いに制限は?」 「基本的にはない。だけど、前の時空走者の願いと矛盾する願いは叶えられない」 「絶対参加なの?」 「自分の世界に戻りたければ。そんなに難しい事じゃない。君らの前方に黒い扉が見えるだろう?その扉の先に私はいる。だが、叶わなくてもいい願いを持った者を呼んだ覚えはない」 「それだけで願いが叶うなんて思えない。リスクは?」 「時空によっては未知の生物に襲われたりするかも。でも、その時は私が責任をもってサポートしよう。初めだけだがね」 「なぜ時空を走らせるのだ?」 「私が時空を操る神だから。面白いしね。他の神も似たようなことをしている」 「スタートする前に貴方からのアドバイスはありますか?」 「元の世界の執着を忘れないこと。時空間に心が惹かれると扉が見えなくなって戻れなくなるから。強い気持ちで走って扉を開けて。さすれば私に辿り着く」  静まり返る。  不安な顔、ワクワクした顔、引き締まった顔。それぞれ表情は違えど、胸に秘めた思いは同じだった。 「もう質問はないな。では、叶えたい願いのために、走り出せ。誰よりも早く私の元に辿り着け。扉の向こうで待っている」  12人は走り出した。自らの願いのために。  扉に向かう途中、皆それぞれ異なる時空間へと消えていった。 「犬塚風斗。君だけ口を開かず、微笑みを顔に貼り付けているだけだった。父親と似ていないな。いや、両親の死が君を変えてしまったのか」
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