時空走者

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 風斗は夜道を走っていた。よく知っている道だ。  記憶が鮮明に蘇る。  小さい頃、公園から家に帰る時に通る道。  風斗の顔は険しくなり、足の進みも遅くなった。  今ではもう通らない道。この先を真っ直ぐ行って右に、両親と住んでいた家がある。  そう思うと自然と鼓動がはやくなった。  ここは時空間。元の世界ではない。  風斗は一度止まり息を吐き、周りを見渡しながら再び歩みを進める。  十字路に差しかかった。右を見て左を見る。黒い扉があった。  あの先に神がいる。誰よりも早く行かないと、願いを叶えて貰えない。  風斗は左の道に駆け出そうと、1歩踏みだーー 「お、風斗も今帰りか?」  風斗の心臓が大きく一打ちした。  後ろから、よく聞き慣れた、だが懐かしく感じる声がかけられたから。  振り返る。  そこにいたのは、まさしく、風斗の父親だった。 「どうした、幽霊を見たような顔してるぞ?」  ニカッと笑い、風斗の頭を優しく撫でる。紛れもなく彼の父親だった。 「帰ろう。母さんが待ってるぞ」  ああ、わかった。  この世界は、両親が生きている世界だ。 「行かないのか?」  父親は俯く息子に明るく声をかける。  行きたい。このまま家に帰って、3人で生きたいよ。  黒い扉が薄くなる。  溢れ出しそうな涙を必死にこらえ、父の元へ駆け出しそうな足を必死に抑えた。 「風斗?どうした?具合でも悪いのか?」  父親は心配そうに風斗の様子を伺う。  もう、このまま、ここにいていいかな。 「2人とも遅いよ!」  突然響いた声に顔を上げる。横に、知らない女の子がいた。 「迎えに来てあげた!」 「ああ、悪いな。今帰るよ。さあ、行こう風斗」 「どうしたのお兄ちゃん?」  風斗は一人っ子。妹はいない。 「変なお兄ちゃん」  風斗は改めて気付かされた。  この世界は、元の世界ではない。  両親が生きている世界。  そして、犬塚風斗に妹がいる世界。  つまり、ここは自分の居場所ではない。  風斗は後ろを振り向き、走り出した。  扉に向かって、走り出した。  自分の名を呼ぶ声を無視し、全速力で、そのまま扉の向こうへと。
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