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「だから最初に言ったでしょう。やめておけと」 男が呆れながら言うと 「しかし、上手くいっただろう?依頼人の要望はしっかり果たしたじゃないか」 と男の対面に座っているもう一人の男は楽しそうに言った。 「よりによって何であんなやり方になったんですか!そもそも今回の依頼は・・・」 「まぁまぁ、とにもかくにも結果は全て上手くいったじゃないか。依頼人だって満足していだだろう?」 「いやそれにしたってですね。あれはやりすぎですよ。何考えてるんですか」 呆れ顔でそう言った。 「便利屋って仕事はいろいろな依頼が舞い込んでくるからね。そのとき役に立つのは発想力だよ。今回のケースはまさにその発想力が遺憾なく発揮された結果だよ。芸術と言ってもいい出来だったね」 便利屋の男が得意そうに言うと 「あんな汚い芸術があってたまりますか!まったく」 と便利屋の助手は頭を振りながら言った。さらに続けて 「そもそもトイレごと弾き飛ばす必要あったんですか?まぁ、たしかに計画は成功しましたけど」 「今思い出しても吹き出しちゃうよ。弾き飛ばされた仮設トイレがまるで独りでに走り出しているみたいだった。あのまま隣町まで吹っ飛んでいくんじゃないかと思ったね。いやぁ、我ながら本当に上手くいった」 便利屋は満足そうに頷いた。助手は呆れながら 「まったく・・・依頼人の要望は嫌な上司をこらしめてほしい、だったはずでしょう! それが何で上司がトイレごとゴルフ場を疾走することになるんですか。一歩間違えれば便器と心中してましたよ」 「あいつはそれぐらいされて当然さ。調査してみたらあの上司、セクハラやパワハラのオンパレードだったじゃないか。とんだクソ野郎だよ、依頼人が泣きついてくるのも無理はないさ」 便利屋はさらに続けて 「それに依頼を引き受けた以上、便利屋としてやれることは最大限やらないとね。それが僕なりの仕事の流儀ってやつさ」 「流儀だか何だか知りませんが、だからといって社員旅行中のゴルフで全社員の目の前でトイレごと弾き飛ばさなくても・・・」 助手は困惑と呆れの声で便利屋に言った。 「全部当初の計画通りにいったろう?まず、上司の飲み物に強力な下剤を混ぜる。そしてあらかじめ吹き飛ぶように仕掛けをしておいた仮設トイレまで上司を誘導して、あとはスイッチを押すだけ。吹き飛んだ先の干し草の山に突っ込むところまで計画は完璧だったじゃないか」 便利屋が満足気に言うのを聞き、助手は額に手を当てながら 「吹き飛んだ先の近くにいた社長に便器の“中身”を全部ぶちまけるところまで計算通りでしたか?」 助手がそう言うと、便利屋はニヤニヤしながら 「あれは傑作だったね。見たかい?あの社長の顔。いや、というかもう見れたもんじゃなかったけどさ」 まったく、と助手はため息をつくと 「それで肝心の上司はその後どうなったんです?」 「体はなんともないさ。ただ彼、左遷が決まったそうだよ。 まぁ、全社員の前で走ってきた仮設トイレから尻丸出しで飛び出したあげく、社長をあんな風に汚しちゃったわけだからねぇ」 「こらしめてくれって依頼はとりあえず果たせたからよかったものの、一歩間違えればどうなったことやら。それにしてもあんな大掛かりな機材よく手配できましたね」 「あの巨大パチンコのこと?テレビのバラエティー番組なんかを作ってる制作会社の人にちょっとしたコネと貸しがあってね。以前テレビの特番で使ったものを融通してもらったんだ」 なるほど、そういうことか。たしかに何かのテレビ番組で見たことがある。もっとも今回パチンコの弾になったのは仮設トイレだったわけだが。 「じゃあ、トイレから社長たち他の社員がいる所まで滑りやすいヌルヌルした液体が敷かれてましたけど、あれもバラエティー番組で使うやつですか?」 「その通り。見たことない?ヌルヌルローション。あのヌルヌルをぶちまけた所で相撲を取ったり、大きな階段を登ったり、あれ本当によく滑るんだよ」 「なるほど、そういうことでしたか。現場で妙に手際よく準備が進めてあったから不思議だったんですよ」  仮設トイレを巨大パチンコにセットして、パチンコ部分は見えないように、木や草で隠しておく。 そしてトイレから他の社員のいる所までヌルヌルローションを撒き、滑りやすいようにしておく。 そして上司を仮設トイレまで誘い込めば準備完了だ。  パチンコを起動させたら仮設トイレはパチンコ玉よろしく弾き飛ばされ、さらにヌルヌルローションで滑りやすくなった地面を一気に走り出して行く。  もちろんその先で待っている社長に向かって。 「それにしても、こんなくだらない作戦よく思いつきましたね」 助手が驚きと呆れの混ざった顔でそう言うと、便利屋は 「依頼人が言っていただろう。あの上司はとんでもないクソ野郎だ。あのクソ野郎の顔に泥を塗ってやりたいって」 「たしかに、言ってましたね・・・えっまさか」 「クソ野郎と聞いて、ピンと閃いたのさ。もっとも塗ったのは泥ではなかったけどね」 と言い、便利屋は腹を抱えながら笑った。
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