走るための

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 それから、家にいる時間は考えるようになった。俺の脚が逃げるようなことを俺は考えていたのだろうか。走りたくないなんて思わないと決めつけていたけれどもしかしたら走りたくないと思った瞬間があったのだろうか。  そんな時、久しぶりに見たテレビであいつの顔があった。インターハイ優勝。こうなってなければ俺も出るはずだった大会。あいつになんか負けない。負けたくない。強くそう思ってふと気が付いた。  ああ、俺は走りたい以上に負けたくないと思っていたのか。そんなことにも気付かずに走りたいなんて笑わせる。負けたくないなら戦えなければいい、確かにそうだ。  俺の脚が逃げたのもきっと俺が気付いていないだけじゃなくてタイミングも悪かったからだろう。あの時なら、俺はまだ走ろうと、出ようとしていただろう。動かない脚が動かせるようになったからといってそんなに急に走れるわけがないのに。走れても速くないままに本当に故障してしまうかもしれないのに。  ふと部屋の隅を見る。その暗がりには俺の脚がいた。 「おかえり」  俺、やっぱり走りたいんだ。
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