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第一章
だいたいのものは、指一本で簡単に手に入る。流行の物はもちろん、クラス内での人気も。金の心配だっていらないし、大抵のことは思い通り。
今日も俺は、教室の片隅でぽちっと購入ボタンを押す。その瞬間、クラスメイトの篠原大輝(しのはらだいき)が、弾かれたようにやってきた。
「うわっ、唯一、お前またこんな高いもの買ったのかよ」
六万弱する高機能ヘッドホンを簡単に手に入れた俺と、購入しましたという画面が浮かぶスマホを交互に見ながら、大輝が大きな声ではしゃぐ。
その声に、他のクラスメイトからの、羨望の眼差しが注がれる。この瞬間が、なによりも気持ちいい。
「うんまぁ。あんまりよくなかったらお前にやるよ」
「まじ? やった。さすが唯一」
大輝は嬉しそうに、ガッツポーズを決めている。最近また髪型を変えたらしく、緩めにかかったパーマヘアがふわりと揺れている。
俺が買った物の支払いは、母親のカードから落ちるようになっている。欲しいと思ったら今みたいに簡単にぽちるし、毎月どのくらい支払いが来ているかは知らない。
だからといって、母親から怒られることはない。もしかすると、いくら落ちているか把握すらしていないかもしれない。
「さすが女優の息子だよな。俺も唯一の家に生まれたかったなー」
腹の底から羨ましがるような声を上げる大輝に「そうか?」と曖昧に頷いてみせる。
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