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日曜日の今日、雲ひとつ無い晴天。
エースの私は、中学ソフトボール球史に残るピッチングを見せている。
今のところ全員を三球三振、てか試合終了はよ!
チームのみんなには悪いけど、私は一刻も早く家に帰りたいんよ!帰らなきゃいけないんよ!
お姉のとこに行きたいんよ!
ノーヒットノーラン?そんなん今はどーでもいいし!さっき1点取れたから、あとはコレ守ればいいだけ。
私の都合でゴメンだけどさ、打たれたら頼むよみんな!ウチの守備力、信じてるからね。
私の目にはスコアボードなんか見えてない。家を出る時のお姉の姿が焼き付いたまんまだ。
今日のお姉は完璧だった。
適当な部屋着すらオシャレな人が、本気を出したらどうなるか、よ~くわかった。
淡い白のワンピースに薄いクリーム色のニットベスト。
Vネックとタイトなラインが、可愛いけどちょっと大人っぽい。
バックと靴の黒で全体を引き締めたデートコーデ。
アクセや時計も、何もかもがお姉のために厳選された逸品に見える。
そしてトドメは、うっすらナチュラルメイクに少しだけ濃い口紅…これが、本気のお姉か…。
オイオイオイオイ…ヤバイやろ、こんな高レベルの女に迫られて、断れる男なんておらんやろ。
でも、お姉が向かうのは、決して報われるはずのない相手…。
ああお姉、そんな幸せそうに…。
私…玄関から出る後姿を、見送ることしかできなかった。
全速力で帰る!
やっぱりお姉には、ちゃんとした相手と恋愛して欲しい。
きっと甘々夢心地で帰ってくるから、私が目を覚まさせなきゃ。
現実を見て、お姉!そっちは行っちゃダメな方!!
最後のバッターの打球は、強烈なピッチャー返し。
投げた直後で体制が不安定な私の顔面に、硬いボールが猛スピードで迫る。
ナメんな!
私はグローブのない右手で、ボールを掴み取った。
審判に確実なキャッチを確認してもらうため、痺れる右手を高らかに掲げる。
同時に試合終了、よし終わった!
大歓声が上がってる?ああ、完全試合か。
いいよ今はどーでも、それより自転車どこに停めたっけ。
あれ?チームのみんなが集まってきた。
えええ?みんなの祝福が!
イヤー!通して、家に帰らせてー!!
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