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なんとか家にたどり着くと、玄関にお姉の靴があった。
帰ってきてる。
荷物を放り投げて、着替えなんか後回しで、お姉の部屋に直行した。
「お姉!!」
夕暮れの、オレンジ色の光に包まれて、お姉はそこにいた。
…泣いてる。お姉が…泣いてる。
出掛けた時のままの格好で、ベッドに座って、お姉は静かに泣いていた。
私は、さっき玄関に放り投げたバットを持って、県外まで殴り込みに行く決心をした。
でも静かで柔らかい涙声に止められた。
「おかえり、すずな。…あのね…フラれちゃった…。」
胸の奥で、今まで感じたことのない感情が沸き上がる。
これが…殺意か。
悲しまないでお姉、私がその原因を根こそぎ消してきてあげるから。
そんな私の激情と反対に、お姉はゆっくり話し続けた。
「慎二郎さんが教えてくれたの、恋愛の『恋』は…相手の愛を一生懸命求めるものなんだって、今の私みたいに。」
「…?」
「そして『愛』は…想いを与え続けるもの。」
「お姉…。」
「慎二郎さんね…自分の想いは、みんな奥さんにあげちゃったんだって。だから、何も残ってないから…私に応えてあげられない。ごめんね…って。」
涙を流しながら微笑む顔を見て、理解した。
お姉は今日、決着をつけに行ったんだ。
慎二郎おじさん…歳の差とか、親戚とか、そんなの抜きにして、ちゃんとお姉をフった。
そしてお姉は、受け止めて、しっかり理解して帰ってきた。
なんだろう…何だろうコレ…。
そんなセリフを、照れもせず真顔で正面から言ったってのも含めてだけど。
大人って、スゴい…。
慎二郎おじさんの言葉を思い出す。
『今はたくさんの男の子を見ておくと良いよ。どんどん付き合うのもアリじゃないかな。』
私も、頑張って探せ…って事か。
「ねえすずな、私ね、返事を書こうかと思うの。」
「たまってる未読?」
「うん、どんな悪口かって思うと、開けなかったから。」
ネットでの誹謗・中傷が問題に上がり始めたのは、たしかお姉がスマホ持った頃からだ。
でも…。
「悪口なんて、きっとひとつもないよ。」
それは絶対だ、不本意ながら私が一番よく知ってる。
「慎二郎さんも、そう言ってた。それに、人を好きになるのは素敵な事だから、まずは相手の事を知ってあげなさいって。」
あ~ね…でも~…その未読に、あんましいいの居ないかも…。
「てか、未読って何件ぐらいあんの?」
「そうね、だいたい30人から1人10件として…300ぐらい?」
ケタが…違う。
「私も手伝うよ、とりあえず弟がいる人を外して…。」
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