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第八章 噂話の真実
「医務院にいくんじゃないの?」
動こうとしないヴィアザに声をかけた。
「いくが、話が先だ」
「治療よりも優先な話って、なに?」
セリーナは、椅子に座った。
「噂話の真実を、伝えておこうと思ってな」
「それは聞くしかないわね。伝え聞いている噂話は、どうしようもなく困ったら、貧困街のボロボロの家を訪ねろ。解決の糸口が見つかるかもしれない。あれば、金を持っていけ。……ここまでよね?」
「ああ」
ヴィアザは無表情でうなずいた。
「その続き、あるの?」
セリーナが首をかしげた。
「続きがあるのは確かだ。〝ただし、生半可な気持ちでいくな。誰かを殺そうとする覚悟の無い者は決していくな。誰かを殺してでも、状況を変えたいのであれば、力を貸そう。我は、命を奪う者。最も重い罪を背負って生きる者。そして、代わりに命を削ろう。訪れたら最後、引き返すことはできないと思え〟」
「……なによ、それ!」
セリーナはそらんじた言葉を聞いて、目を瞠った。
「事実だ。俺は、無敵じゃあない。戦いの中でしか生きられないだけだ」
そう言い放つ、ヴィアザの声は恐ろしいほど低かった。
「いつからやっているの?」
「憶えている限りでは、二十年ほど前」
ヴィアザは嘘を吐いた。本当はもっと前だが、それを言ってしまうと、長話をしなくてはならなくなる。それを回避するための、嘘だった。
「ずっと、独りでいたの?」
「そうだ」
「辛いはずよ、違う?」
「そんなの、とっくに忘れたよ」
ヴィアザは逃げるように椅子から立ち上がり、外へ出た。
その後ろ姿を見て、セリーナは追い駆けた。
「さっきの話、誰にも言うなよ?」
歩きながら、ヴィアザが囁いた。
「分かってる」
その言葉にうなずいたヴィアザは無言で歩き続けた。
しばらくすると、医務院が見えてきた。
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