第八章 噂話の真実

1/2
前へ
/48ページ
次へ

第八章 噂話の真実

「医務院にいくんじゃないの?」  動こうとしないヴィアザに声をかけた。 「いくが、話が先だ」 「治療よりも優先な話って、なに?」  セリーナは、椅子に座った。 「噂話の真実を、伝えておこうと思ってな」 「それは聞くしかないわね。伝え聞いている噂話は、どうしようもなく困ったら、貧困街のボロボロの家を訪ねろ。解決の糸口が見つかるかもしれない。あれば、金を持っていけ。……ここまでよね?」 「ああ」  ヴィアザは無表情でうなずいた。 「その続き、あるの?」  セリーナが首をかしげた。 「続きがあるのは確かだ。〝ただし、生半可な気持ちでいくな。誰かを殺そうとする覚悟の無い者は決していくな。誰かを殺してでも、状況を変えたいのであれば、力を貸そう。我は、命を奪う者。最も重い罪を背負って生きる者。そして、代わりに命を削ろう。訪れたら最後、引き返すことはできないと思え〟」 「……なによ、それ!」  セリーナはそらんじた言葉を聞いて、目を瞠った。 「事実だ。俺は、無敵じゃあない。戦いの中でしか生きられないだけだ」  そう言い放つ、ヴィアザの声は恐ろしいほど低かった。 「いつからやっているの?」 「憶えている限りでは、二十年ほど前」  ヴィアザは嘘を吐いた。本当はもっと前だが、それを言ってしまうと、長話をしなくてはならなくなる。それを回避するための、嘘だった。 「ずっと、独りでいたの?」 「そうだ」 「辛いはずよ、違う?」 「そんなの、とっくに忘れたよ」  ヴィアザは逃げるように椅子から立ち上がり、外へ出た。  その後ろ姿を見て、セリーナは追い駆けた。 「さっきの話、誰にも言うなよ?」  歩きながら、ヴィアザが囁いた。 「分かってる」  その言葉にうなずいたヴィアザは無言で歩き続けた。  しばらくすると、医務院が見えてきた。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加