第四章 治療

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「連れって言ったって。もうちょっと、説明してくれてもいいんじゃない?」  ニトは治療に必要な物を用意しながら、溜息混じりに言った。 「本人から聞いただろう?」 「名前以外のことは知らないよ!」  ニトが怒鳴った。 「手を組まないかと、持ちかけてきた」 「どうするんだい?」  ニトが尋ねた。 「かなりの力を持っている。人間の中ではな。腕を磨いてきたことも分かった。少なくとも、自分の身を守れる。そんな奴だと。……治療の間、考える」  ヴィアザは言いながら、マントと上着を脱いで、丸椅子に座った。  ニトは見慣れた上半身を見て思った。  ――いつ見ても哀しい身体だ。  ヴィアザの身体には数多くの古傷が無秩序に刻まれていた。それこそ、全身を覆うかのように。  今回は腹を刺し貫かれたらしく、白い肌だからだろう。余計に目立って見えた。 「本当に顔に出ないんだから。君の場合は、少しくらい顔に出した方がいいと、私は思うよ」 「そういうわけにはいかん」 「まったく」  ニトは溜息を吐いて、薄手の布を二か所の傷に当てて小さなテープを布の端にはった。その上から包帯を巻きつけた。 「治療代だ」  素早く身支度を終えたヴィアザは、金貨一枚を渡した。 「確かに。数日は休んでね?」 「ああ。この話、受けようと思う」 「それがいい」  ニトは思う。  ――君の歩いている道は、地獄そのものだ。誰か、寄り添ってくれるような人が必要だ。孤独で戦い続けるなんて、あまりに酷だ。 「じゃあな」 「うん」  ニトはヴィアザの声で、現実に引き戻された。 「待たせたな」 「大丈夫なの?」  セリーナが椅子から立ち上がった。 「ああ。帰るぞ」  ヴィアザがそう言い、医務院を出た。 「ちょっと待って」  医務院を出ようとしたセリーナをニトが引き留めた。 「はい」 「君はいい目をしているね。きっと、ヴィアザ君と同じで、人の命を狩っているのでしょ?」 「ええ」  セリーナはうなずいた。 「ヴィアザ君の、傍にいてあげてね」 「え?」  聞き返したセリーナだったが、もうニトの姿はなかった。  首をかしげたセリーナは、ヴィアザの待つ医務院の外へ駆け出した。  外に出ると、夜が明けており、ヴィアザはフードを目深に被って歩いた。
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