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「連れって言ったって。もうちょっと、説明してくれてもいいんじゃない?」
ニトは治療に必要な物を用意しながら、溜息混じりに言った。
「本人から聞いただろう?」
「名前以外のことは知らないよ!」
ニトが怒鳴った。
「手を組まないかと、持ちかけてきた」
「どうするんだい?」
ニトが尋ねた。
「かなりの力を持っている。人間の中ではな。腕を磨いてきたことも分かった。少なくとも、自分の身を守れる。そんな奴だと。……治療の間、考える」
ヴィアザは言いながら、マントと上着を脱いで、丸椅子に座った。
ニトは見慣れた上半身を見て思った。
――いつ見ても哀しい身体だ。
ヴィアザの身体には数多くの古傷が無秩序に刻まれていた。それこそ、全身を覆うかのように。
今回は腹を刺し貫かれたらしく、白い肌だからだろう。余計に目立って見えた。
「本当に顔に出ないんだから。君の場合は、少しくらい顔に出した方がいいと、私は思うよ」
「そういうわけにはいかん」
「まったく」
ニトは溜息を吐いて、薄手の布を二か所の傷に当てて小さなテープを布の端にはった。その上から包帯を巻きつけた。
「治療代だ」
素早く身支度を終えたヴィアザは、金貨一枚を渡した。
「確かに。数日は休んでね?」
「ああ。この話、受けようと思う」
「それがいい」
ニトは思う。
――君の歩いている道は、地獄そのものだ。誰か、寄り添ってくれるような人が必要だ。孤独で戦い続けるなんて、あまりに酷だ。
「じゃあな」
「うん」
ニトはヴィアザの声で、現実に引き戻された。
「待たせたな」
「大丈夫なの?」
セリーナが椅子から立ち上がった。
「ああ。帰るぞ」
ヴィアザがそう言い、医務院を出た。
「ちょっと待って」
医務院を出ようとしたセリーナをニトが引き留めた。
「はい」
「君はいい目をしているね。きっと、ヴィアザ君と同じで、人の命を狩っているのでしょ?」
「ええ」
セリーナはうなずいた。
「ヴィアザ君の、傍にいてあげてね」
「え?」
聞き返したセリーナだったが、もうニトの姿はなかった。
首をかしげたセリーナは、ヴィアザの待つ医務院の外へ駆け出した。
外に出ると、夜が明けており、ヴィアザはフードを目深に被って歩いた。
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