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それから十年の月日が流れた。
ひたすら夜に依頼をこなし、天風を凌げるだけの拠点も手に入れた。
依頼をこなした後は、いつも寝れない。最期の表情が脳裏に焼きついて離れてくれない。
彼女は思いっきり泣いた。声を押し殺しながら。こういうときでなければ、感情を表に出せなかった。罪深いことをしているのは、嫌というほど分かっていた。それでも、そうすることでしか生きる術がなかった。ほかの道など、初めから存在しなかった。
そして彼女は裏の世界でこう呼ばれていた。〝戦場に輝く閃光〟と。
そう呼ばれるようになったのは、彼女の戦い方にあった。
敵に反撃の機会を与えずに、命を狩り取るからだ。
敵からすれば一瞬で死に至るから、閃光のように見えるのだ。
命を奪うが、自分は決して傷つかない。
怪我をするとしばらく動けなくなる。それを避けるためだった。
彼女は強者となったのだ。己の力だけを磨き続けて。誰にも自分の命を奪わせないために。
それからさらに数年が過ぎた。
このときはもう、殺しの依頼を片づけるたびに泣くということは、なくなっていた。
涙が枯れ切ってしまったのかもしれないと思っていた。
人を殺すということをしなければ、生きられなくなってしまったのだと、彼女は思っていた。
初めて人を殺した、人を死に追い込んだ彼女は、自分でも不気味なほど、冷静だった。驚きもなければ、悲しみもない。ただ、人を殺したのか、と事実を受け止めただけ。
――命は大事なのだろう、だが、奪うのはとても容易いこと。
彼女はそう思いながら依頼をこなし続けた。
自分の中で、なにか大事なモノを無くしたような、鬱々とした闇を自覚しながら。
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