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「話は終わり。セッリー家を潰したい。あたしはそのためにすべてを犠牲にしてきた。後悔はしていないわ」
セリーナは無表情で言った。
「復讐か。それが終わったら、どうするつもりだ?」
ヴィアザが視線を投げた。
「今は、考えられない」
「だろうな。そんなお前にひとつ言っておく。お前の復讐が無事に終わったら、自分のために生きろ」
ヴィアザは煙管から口を離して言った。
「自分のため……?」
セリーナは困惑した。
「そうだ。セッリー家を潰したら、お前を縛る鎖が無くなるんだ。誰かのために生きるなど、できやしないんだよ。……その家のことは、俺の方で調べる」
ヴィアザはそう言うと、セリーナがうなずいた。
セリーナが帰った後、ヴィアザはワインを杯に注ぎ、顔をしかめた。
昔話をしていた彼女の顔には表情がなかった。涙が枯れ果てたのかもしれない。静かな声で、淡々としていた。家族を奪われた憎しみや恨みで、二十年も、この国の闇の中で生きる。とても辛かったはずだ。自分を責めただろう。どうにもできなくて、泣いた夜だってあったはずだ。それでも、闇の中でたった一人、もがいてきたのか。仇を討つためだけに。哀しいことだ。彼女は復讐者だ。復讐を遂げた後、彼女の心の支えになるモノが、ない。そんな都合よく見つかるとは思わない。だが、なんでもいいからひとつだけ、あればいいのだが。そう思わずにはいられない。
――いつか、俺のことも、話してみたい。ありのままの俺を見たら、彼女がどんな顔をするのだろう? 俺は過去に縛られている。囚われている。逃れようがないのだ。生きている間、背負い続けなくてはいけない、とても重い罪。今はまだ、話すときではない。
ヴィアザは暗い顔で煙管に視線を落とした。
ヴィアザの通り名〝漆黒の狼〟の由来は、黒衣を身に纏っていることと、人を殺していく様が、一匹の狼に見えるからだ。敵であれば、容赦なく噛み殺す。
この男の振るう刀には迷いや隙がない。それに容赦がない。
敵の命は必ず奪う。そんな強い想いをひしひしと感じさせるのだ。
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