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プロローグ 酒場でのひと騒ぎ
ここは、サラザーナ王国。四季が存在している。巨大な城を中心に城下町があり、その周りを取り囲むように貴族街と一般街がある。そのさらに外側には貧困街がある。そして、街ごとに掟が存在する。城下町は、繁栄こそすべて。貴族街は、家を誇れ。一般街は、生きていることに感謝。そして、貧困街は――。
春になり始めたある日の夜、貧困街にある小さな酒場で、一人の男が酒を呑んでいた。見た目は二十八歳くらいか。近くに刀を置いているから剣士に見えなくもない。
そこへ二人のゴロツキがやってくる。
「剣士が一人で酒を呑んでるのか」
馴れ馴れしく声をかけられた。
「おお? どんな武器を使うんだ?」
そう言いながら片方のゴロツキが武器に触れようと手を伸ばしてきた。
「痛てぇな!」
男に強く手を叩かれて、痛む手を擦る。
「貴様のような人間が触れていいものではない」
その声はとても低い。
「あんた、名は?」
「答えるつもりはない」
「馬鹿にしてるのか、てめぇ!」
「だったら、なんだ?」
男が溜息を吐いた。
「ちょっと、痛い目見せてやるよっ!」
空の取っ手つきの杯を鈍器に見立てて、殴りつけてきた。
男はそれを右腕で受け止める。
「くっ!」
ゴロツキがいくら力を込めても、圧される様子はない。
男は盛大な溜息を吐くと、左手を握ると頬を殴りつけた。
その動きには一切の無駄がなかった。
「ごふっ!」
「こいつはダメだ! 逃げるぞ!」
よろめいたゴロツキを見て、慌てて言い、二人は酒場から逃げ出した。
「騒がしてすまなかったな」
「大ごとにならなくてよかったよ」
静かな町だからこそだろう。男には二回の発砲音が聞こえていたが、口にはしなかった。
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