第七章 貴族の娘

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第七章 貴族の娘

 数日後の昼間。以前の依頼で受けた傷はすっかり治っていた。  誰かの来訪を告げるノックの音が聞こえてきた。 「開いている」  その声を聞いて入ってきたのは、身なりのいい娘と、執事だった。 「あなたが〝漆黒の狼〟?」  家の中なのにフードを被っているのが不思議なのだろう、首をかしげていた。 「そうだ。俺になにをしろと?」 「このお方の嫁ぎ先、フィーナス家が罪を犯しているとの情報を得ましたので、潰してほしいのです」 「どんな罪だ?」 「違法とされている薬品の販売、またはその使用です」 「ドラッグというわけか。ろくな連中じゃなさそうだ。それで、娘さんよ、あんたはそれでいいのか?」 「なんと無礼な!」  執事が怒りをあらわにした。 「いいのよ。わたくしは、罪を犯していると分かった以上、結婚する気はありません」 「情に流されるわけではない、と」  ヴィアザは顔を上げて、赤い目で娘を見た。 「っ!」  娘は吸い込まれそうなほど美しく、冷たいその目に見惚れていた。  その目がすうっと細められる。 「いいだろう。潰してやる。金はそこのテーブルに置いてくれ」 「これは前金です。成功したら同じ額を支払います」  執事が金貨十枚をテーブルに置いた。 「分かった。決行は今夜」 「頼みましたよ」  ヴィアザはその言葉にうなずいた。 「では、またきます」  その言葉を最後に娘と執事が出ていった。
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