第七章 貴族の娘

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「貴様に死を届けにきた。だが、その前に」  ヴィアザは言いながら手ごろな置物を手にして、窓に向かって投げつけた。  硝子が割れ、煙がいっせいに出ていく。 「余計なことを……!」 「俺には効かんが、人間がずっと吸っていていいものではない」  その間に近くまでいったセリーナは窓を蹴って割り、詰めていた息を吐き出した。生き返ったらしい。 「お前、いったい……?」  男が首をかしげた。 「人ではない、とだけ言っておく」 「人間ではないなにか、だと!? そこの女、そんな奴といて平気なのか!」 「ずいぶん動揺しているようだけれど。あたしは平気だし、あんたと違って、差別なんかしないわ」 「な、なんだと……」 「貴様は罪を犯している。しかもとても重いときた。貴様の命ひとつで償えるとはとうてい思えないが、ここで幕引きとさせてもらう」  冷ややかに見つめながら、ヴィアザが言った。 「黙って殺されることを受け容れるほど、できた人間ではない!」  男はライフル銃を構えて、引き金を引いた。 「そうだろうとは思ったよ」  ヴィアザは放たれた弾丸を、刀で両断した。 「なに……!」  驚愕の事実に男は腰を抜かした。それでも、引き金に指をかけ、弾切れになるまで撃ち続けた。  しかし、その弾丸がヴィアザを傷つけることはなかった。五つ、すべての弾丸を斬り捨てたからだ。  その結果を受けて、怯えた男は、弾を込めることすら忘れ、ライフル銃を捨てた。  なにを思ったのか、窓辺にいたセリーナにナイフを振りかざして、襲い掛かった。  それを見たセリーナは、溜息を吐いて、リヴォルバーを向けた。  一発撃つと男が右手の甲を押さえて、膝をついた。  よく見れば、右手に弾がめり込んで、血が流れている。 「すべてを壊して、満足か!」  男は左手で落ちたナイフを握ると、ヴィアザを睨みつけた。 「それを決めるのは、俺達じゃない」  ヴィアザは言いながら、すたすたと歩き出した。  それを隙と見た男は、ヴィアザの腹にナイフを突き刺した。  攻撃を受けたヴィアザだったが、無表情で男の首を刎ね、心臓を刺し貫いた。  突き刺さったナイフを捨てると、マントを翻した。 「帰るぞ」  セリーナはその言葉にうなずいて、追い駆けた。  二人は駆け足で隠れ家に戻ると、依頼人が待っていた。 「依頼は達成した。フィーナス家は全滅だ」  マントで傷口を隠したヴィアザが声を出した。 「それはようございました。成功報酬です」  ヴィアザは金貨十枚を受け取った。 「彼らに、罰を与えることができてよかったと思っていますわ」 「失礼いたします」  執事と貴族の娘は、そう言うと、隠れ家を去った。
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