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第十章 彼女の核となるモノ
ヴィアザは医務院に直行した。
「開けてくれ!」
ドアを軽く蹴って声を張った。
「ドアくらい、自分で開けなよ!」
怒ったニトが出てきて、ヴィアザに抱かれたセリーナを見て目を丸くした。
「そういう仲になったの?」
「違う。足を怪我した。先に診てくれ」
「そ。分かった、入って」
ちょっと残念という顔をしたニトを不思議に思った、ヴィアザとセリーナだったが、無言で中に入った。
奥の部屋のベッドに、セリーナを座らせると、右足のヒールを脱いだ。
「ちょっと失礼するよ。うん、冷やせば大丈夫。ちょっと冷たいよ?」
ニトは言いながら、痣ができ、腫れている右足を見つめて、湿布を手にした。
湿布をはって包帯で足を固定した。
「ありがとうございます」
セリーナは礼を言った。
「痛みが引くまで歩かない方がいい。ヒールだと余計にね。なに、念のためだよ」
ニトはふっと笑った。
「俺も診てもらおうか」
べッドの手前に置いてあった椅子に座りながら、ヴィアザが言った。
「彼女の前だけれど、いいのかい?」
ニトが耳打ちをしてきた。
「いつまでも、隠し通せるものではない。いつかは知ることになるんだ。それが早まっただけのこと」
「そ」
囁くような低い声で言ったその言葉を聞き、ニトは離れた。
ヴィアザは無言でマントと着ていたワイシャツを脱いだ。
「なによ、その身体……!」
背中を見たセリーナが思わず言った。
血で真っ赤になっている上半身を見ている。
セリーナが見守る中、ニトは血を落としにかかった。
しばらくして、美しい白い肌に無秩序で刻まれた古傷の数々があらわになった。
「……っ!」
セリーナはその身体から目を離すことができなかった。
なぜというよりも、こんなに深手を負い続けていたのかと、たった独りでずっと痛みに耐えてきたのかと思った。
大きめの薄手の布が当てられ、傷が隠れた。
「歩けるようになるまで、隠れ家にいろ」
上半身と右掌を包帯で覆われ、左頬に薄手の布をはられたヴィアザが言った。
手当てがすむとワイシャツとマントを着て、ニトに金貨一枚を払った。
「いくぞ」
フードを目深に被ったヴィアザに抱き上げられ、セリーナはこくんとうなずいた。
ニトが見送る中、二人は医務院を後にした。
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