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椅子に座りながら、ヴィアザは尋ねた。
「ここに顔を出すわよ。やることは今までと変わらない。……っ」
――あなたを放っておけない。
セリーナは内心でそう思ったが、口を噤んだ。
「人を殺し続けることを、やめる気はないんだな? やめた方がお前にとって、いいはずだが」
ヴィアザは念を押すように言った。
「小さなころからずっと、誰かが虐げられるのを、見ていることしかできなかった。それが嫌でもあったのよ。力を手に入れたのに、使わないなんて、勿体ないわ」
セリーナは普通の口調を装った。
「なぜ、復讐を果たしたのに、汚れ仕事を続ける? お前を縛るものはもう、なにもないんだぞ。泣いたり、苦しんだ夜もあっただろう。遣る瀬無いときだって、あっただろう? そんな想い、しなくていいんだよ。お前……セリーナは、十分すぎるぐらい、戦い抜いた」
ヴィアザは初めて、彼女の名を呼んだ。その声はとても優しかった。
「あなたの目は……誤魔化せないわね。あたしは、仇を討つことだけにすべてを捧げてきた。後悔はしていないわ。でもね、今さら、自分のために生きるなんて真似、どうすればできるの? 今まで自分のことなんて、脇に置いて生きてきたのに。無理を言わないで」
セリーナは目を潤ませて言った。
「自分の感情に、素直になれ。それは、罪ではないのだから」
「辛かった……。独りで生き続けることが、とっても、辛かった……! あたしは望んでたんじゃない。こんな汚れ仕事でしか、周りに認められないと思ったから……! 平穏に生きたかったのは確か。でも、それは赦されなかった! あたしには人を殺す仕事しかできないから!」
セリーナはその優しい言葉を聞いて、顔をくしゃくしゃにして言った。
「思いっきり泣くといい。普通の人間が、感情を抑え込むなど、止めた方がいい。毒でしかないからな」
ヴィアザは立ち上がって、セリーナの近くに腰をかけると、そっと抱きしめた。
「っ……!」
セリーナは身体を固くした。
「独りで泣くのはあまりに寂しいだろ? それに、俺は寄り添うことしかできんが」
「寂しいのはもう、嫌……!」
セリーナは嗚咽しながら、ずっと泣き続けた。
ヴィアザは優しく、その小さな身体を抱きしめ続けた。
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