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第十一章 通り名がふたつ
それから二時間後、セリーナが泣きやんだ。
「大丈夫か?」
身体をそっと離し、ヴィアザが声をかけた。
「う、ん」
セリーナは顔を拭った。
「俺の話は、明日にしよう。ゆっくり休め」
ヴィアザは立ち上がって、椅子に移動した。
「あ、ありがとう」
セリーナの礼に、ヴィアザはふっと笑った。
念のため、近くに刀を立てかけて、ヴィアザも眠りについた。
翌朝。
ヴィアザが目を覚ました。
ベッドに視線を向けると、泣き疲れて眠っているセリーナがいた。
頬には泣いた痕があった。目も少し腫れていた。
ヴィアザは思わず、頬を撫でた。
「ん……」
セリーナが目を開けた。
「よく寝れたか」
「ええ。ひょっとして、目、まだ腫れてる?」
セリーナの問いにヴィアザはうなずいた。
「ま、あれだけ泣いたんだから、仕方ないわね」
「まだじっとしていろ。俺じゃあないんだから」
ヴィアザは苦笑した。
「お互い怪我人でしょうに」
「それは認める」
ヴィアザとセリーナは顔を見合わせて笑いあった。
「……古傷塗れなのは、上半身だけではない」
ヴィアザは笑みをかき消して言うと、日の光が入ってこないことを確認してから、ワイシャツを脱いだ。
「まさか、腕も……?」
「そうだ。俺はもう、諦めたよ」
ヴィアザは突き放すように言った。
「なにを?」
セリーナは泣きそうになりながら、尋ねた。
「俺は誰も愛してはいけないし、愛されてはならない。小さな幸せでさえ、手にしてはならない。そういうモノに限って、掌から零れていくのだから。俺に惚れたという人がいたのなら、突き放すことしか、できない。それが、俺なりの返事だ」
「……」
セリーナはただ涙を流す。
「どうして、セリーナが泣くんだ?」
ヴィアザは無表情で疑問を口にした。
「愛されてはならない、なんてこと、絶対にない。人であろうがなかろうが、みな生きているんだもの。その資格は始めから持ってるのよ?」
セリーナは泣きながら言った。
「そんな資格、俺には必要ない。人を殺しているからこそ、俺は闇の中に、身を置いていなければならない。光は眩しすぎて、嫌なんだ」
ヴィアザは本音を口にした。
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