第十一章 通り名がふたつ

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 セリーナが身体を起こして、ヴィアザを抱きしめたからだ。 「なにをしている?」 「昨日のお礼よ。あたしよりも暗くて深い闇を、一人で歩いてきたのでしょ」 「ああ。そうだ」 「今じゃなくていい。いつか、ヴィアザが話したくなったら、昔話、聞かせて?」  セリーナはそっと、背を撫でながら言った。 「ああ、分かったよ」  ヴィアザは低い声で言った。 「あたしは、ヴィアザと一緒にいたい。こんなに優しい人、ほかにいない。名も知らぬ国民の恨みを引き受けて、自分のことなど放っておいて、戦い続けるなんてね。あたしは、孤高の戦士だと思ってる。ヴィアザは、誰よりも、命の重さを分かってる」 「……そうか。自分のことを、残酷なまでに、斬り捨てただけさ。俺は生きたかったからな。手段を選ぶ余地はなかったんだ」  ヴィアザは遣る瀬無い笑みを浮かべた。 「お疲れ様、ヴィアザ。あたしは多分、あなたに惹かれてる。どうするかは、ヴィアザが決めて。いつまででも、待っているから」 「なんだと……」  ヴィアザは言葉を失った。 「事実なんだもの、仕方ないじゃない。誰かを好きになるのは、罪ではないでしょ?」  泣きながら、セリーナは笑った。  その顔を見て、ヴィアザは思わず、セリーナを抱きしめた。 「その答えは、俺の過去を話すときまで、保留にさせてくれ。あと、これだけは言っておく。……ありがとう」  セリーナは泣きながら首を横に振った。
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