第十一章 通り名がふたつ

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「なあ、セリーナ。これは俺の予想だが、まだ、人を殺したときの反動が、あるんじゃないのか?」  彼女を抱きしめたまま、ヴィアザが尋ねた。 「まだ、あるわよ。最初のころより、だいぶマシになったけれど」 「なら、なぜ続ける? 誰もそれを強制してはいないというのに。セリーナは、やっと自由になれたというのに」 「確かに、あたしを縛るものはない。けれど、それだけなのよ。なにもないことを痛感してるの」 「……そうか」  ヴィアザはそう言って、セリーナを抱きしめる腕に力を込めた。  数日後の夜、隠れ家に一人の男が顔を出した。着ているものからして、一般街の者だと思われた。 「〝漆黒の狼〟って通り名を持っている人はいる?」 「俺がそうだが?」  夜なので、フードを外しているヴィアザが声を出した。 「あんたに、頼みたいことがあるんだ!」 「依頼内容は?」  ヴィアザが低い声で尋ねた。 「城下町で商売をしている肉屋のミッツを殺してほしい。金ならある」  男はテーブルの上に金貨五枚を置いた。 「なぜ?」 「嫁を殺した相手だから」 「いいだろう。決行は明日の夜だ」  男は一礼すると、隠れ家を去った。
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