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「ああ。ふたつ持つのは俺だけだ。〝漆黒の狼〟は誰に知られても構わない。だが、もうひとつの方は、隠しておく必要があった。軽々しく口にしていいものでもないからな」
ヴィアザは低い声で言った。
「そうだったのね。それについては誰にも言わないわ」
セリーナはうなずいた。
「もうひとつ、秘密を明かしてやる。俺は人間ではない。ヴァンパイア。吸血鬼だ。もうなん十年も人間の血を飲んでいない。その代わりに、ワインを呑んでいる。なに、高価なもんじゃない。一般街で普通に買えるものさ」
ヴィアザは煙管を見ながら目を細めた。
「本当にいるのね。吸血鬼なんて」
「驚くな、と言う方が無理だ」
ヴィアザは苦笑した。
「そうね。……国の中心ばかりが豊かで、貧困街なんて、生きるのに精いっぱいな人達が溢れている。同じ国の中なのに、ここまで違うなんておかしい」
セリーナは唇を噛んだ。
「そうだな。俺も、そう思う」
「ねぇ、手を組まない?」
ノックの音が聞こえてきた。
「ちょっと待て。その返事は、後にさせてもらうぞ」
セリーナが首をかしげた。
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