第三章 少年

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第三章 少年

「助けて!」  ヴィアザがドアを開けるなり、少年が飛び込んできた。 「なにがあった?」  ヴィアザは少年の肩に手を置き、片膝をついて視線を合わせた。 「い、妹が、貴族に連れていかれた! 金貨の袋なんてなくていい! ぼくじゃすぐにやられちゃう。だから、お願い! 助けて! 二人で生きたいだけなんだ!」 「分かった。家に帰っていろ。連れ戻してくる」 「ありがとう! それと、これ」  少年は金貨の入った袋を渡すと、頭を下げて、出ていった。 「話はいきがてら、な。ちょっと付き合ってくれ」 「ええ」  セリーナが立ち上がった。 「その前に……」  ヴィアザは呟くと、別の袋を持ってきて、中身をすべて移し替えた。それを部屋の隅に置いた。 「……」  セリーナはその袋に入っていた金貨の多さに言葉を失った。  ヴィアザは空になった印のついた袋を、丸めてポケットに捻じ込んだ。 「いくぞ」 「どの貴族か、分かったの?」  走りながらセリーナが尋ねた。 「ああ」 「でも、どうして、少年がきたの? 看板らしきもの、ないじゃない」 「俺はあの場所を、どうしようもなく困ったときにくるようにと、国民に伝えてある。噂話として……な」  ヴィアザは口端を吊り上げて(わら)った。 「噂話としてって……! 上手い方法じゃないの」  セリーナが笑った。 「それはどうも。この機会は逃したくない。互いの腕を見せ合い、見極めようじゃないか」 「賛成。その方が手っ取り早いしね」  二人が隠れ家を出て、三十分が経ったころ、目的地に辿り着いた。 「ここだ。なにかと悪名高い」 「ふうん。命を奪えってこと?」 「そうだ」 「了解」  二人は愛用している武器を手にしながら、歩き出した。 「ここは――!」  それを見ていた門番が声を荒げた。 「シュワルツ家だろう。知っている」  呟くと同時に、ヴィアザは男を斬りつけた。  首を精確に斬っている。そして、鮮血の(したた)る刀の色に目を奪われた。  それは美しいダークブルーだったのだ。  相当な手練れだ。  セリーナはその光景を見ながら思った。 「て……!?」  叫ぼうとした男にセリーナのリヴォルバーが火を噴いた。  精確に心臓を撃ち抜いた。  それを横目で確認したヴィアザは、かなりの腕だと思った。 「雑魚なら任せて。あたしの腕、分かったでしょう?」 「では、任せる。さっさとリーダーを殺して終わらせる」  ヴィアザは屋敷の戸を蹴り開けた。
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