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* * *  目の前に左手を大きく広げ、薬指に光る指輪を改めて見ると、やっぱりどうしてもにやけてしまう。  明はその手の向こうでぐっすり眠っている優の顔を見つめ、この人と結ばれたのだと嬉しく思った。  急に連れて来られた実家で、あれよと言う間に執り行われた結婚だったせいか、一晩経ち、こうして落ち着いた頃ようやく実感が湧いてきたのだ。  じっと優の寝顔を見ていると、視線を感じたのか、優の眉根にしわが寄り、ゆっくりとその目が開いた。少しぼんやりとこちらを見てから、明、と小さく呼ばれる。 「おはようございます、優さん」 「うん……おはよう、明」  明と揃いの指輪が付いた手を伸ばし、優が明の頭を引き寄せる。唇を合わせるだけのキスをすると、そのまま明の頭を撫でて手が離れていく。  こんなに甘い朝を迎えたことがなくて、明は嬉しくて、でも少し恥ずかしくて、優から視線を逸らした。  そんな明を見たせいか、優が小さく笑った、その時だった。  ドアがノックされ、明はドアへと視線を送った。優が起き上がり、着ていた浴衣の帯を締め直しながらドアに近づく。  明も寝ている間に乱れた浴衣の襟を整え、起き上がった。  それを確認した優がドアを開ける。 「おはよう、めいちゃん、すぐるおにいちゃん!」  そこに居たのは朝食の載った膳を持った翠だった。その後ろには櫂もいる。 「翠……それに櫂兄も……」  明が驚いて二人を見ていると、翠は布団の傍に膳を置いて微笑んだ。 「朝ごはんだよ。たくさん食べてね」  翠の言葉と笑顔に明が頷く。その後ろから膳をもう一つ持った櫂が翠にそれを渡す。翠は慎重にそれを受け取り、膳を並べるように置いた。 「……翌朝の食事は未婚の女性が運ぶことになってる。うちには翠しかいない」  櫂はぶっきらぼうに言うと、翠、と娘を呼び抱き上げた。それから立ったままだった優に近づく。 「……明を泣かせてみろ。兎田家総出でお前を殺しに行くぞ」  いいな、と言って櫂は部屋を出て行った。そんな櫂を驚いた顔で見ているだけだった優が、大きく息を吐いてからゆっくりと明を振り返った。 「……兎田家総出だって」  そう言う優の顔は笑っていた。殺しに行く、なんて物騒なことを言われたのにそんな嬉しそうな顔をしている優に、明は慌てて言葉を返す。 「優さん、あの……櫂兄が、ごめんなさい……絶対、そんなことさせません、から……」 「違うよ、明。俺は嬉しいんだ」  優は明の元へと戻り、向かい合うように布団の上に座り込んで、明を見つめた。 「うれ、しい?」  明には優の言う事が分からず首を傾げる。すると優はそっと視線を二つ並んだ朝食に向けた。 「この朝食を二人で食べることで、君たちの儀式はきっと終了なんだろう? そのために翠ちゃんに食事を運ばせた。自分が運んで儀式をダメにすることも出来たのに、櫂さんはそうしなかったんだよ」  言ってることが分かる? と優が聞く。明はようやく優の言う事が分かって、大きく頷いた。 「櫂兄が、認めてくれたって、こと、ですよね……」 「うん。俺と明はこれで番だよ」  そう言って優が両腕を広げる。明はそれに吸い込まれるように優の胸に抱きついた。
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